J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

海がプラスチックで窒息寸前 環境マンガ家が見た3つの大問題

【2022年を占う(1)】

   SDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)」、カーボンニュートラル、「プラスチックごみゼロ」宣言。環境にまつわるこうしたワードの意味が、ますます重くなってきた。

   環境マンガ家でカヌーイストの本田亮さんは、環境面でも海の変化と、それらがもたらす影響を危惧している。私たちに関わる問題は「魚介類の不漁」だけではない。海温上昇による台風の巨大化、住む場所を変えざるを得ない動物たちなど、「2022年、致命的な海問題」3点に、本田さんは警鐘を鳴らす。(聞き手はJ-CASTトレンド編集部・藤原綾香)

  • 環境マンガ家、カヌーイストの本田亮さん
    環境マンガ家、カヌーイストの本田亮さん
  • 環境マンガ家、カヌーイストの本田亮さん
  • 大型台風に見舞われたフィリピン・ミンダナオ島のヤシの木(画像2)
  • 画像2をもとに、本田さんが描いたイラスト

魚よりプラスチックが多く潜む海

――ずばり、本田さんが注目する3つの海問題とは。

本田:マイクロプラスチック、温暖化、迷走する生物ですね。

――順に詳しく聞かせてください。

本田:まず、マイクロプラスチック(直径5ミリメートル以下の小さなプラスチック)。これによって、海が「窒息」しそうなのです。
2016年のダボス会議(世界経済フォーラム)で、「2050年には海洋中のプラスチック量が、魚の量を超えるだろう」との試算が発表されました。衝撃的な数値ですよね。

――想像を絶します。海でプラスチックごみの多さを痛感した体験はありますか。

本田:隠岐の島(島根県)で目の当たりにした光景が忘れられません。朝鮮半島から流れてくるごみで、海岸が埋め尽くされていたんです。いくら片付けてもなくならない。大きなものはテーブルやイスとして「使える」ほどでした。
テーブルとイスを現地調達できてしまった(2021年9月撮影)
テーブルとイスを現地調達できてしまった(2021年9月撮影)

   大きなプラスチックごみが風や波で粉々になり、マイクロプラスチックとして海へ戻っていきます。それをエサだと思って食べてしまった小魚を、大魚がさらに食べ、やがて我々の食卓に上がるわけです。

――プラスチックを間接的に摂取することになりますね。

本田:海からしっぺ返しを食っている構図。プラスチックごみは海にも人にも何一つ良いことがない、喫緊の課題です。
世界に警鐘を鳴らすため、海洋環境保護団体「Plastic Oceans」が18年に行ったユニークな取り組みがあります。米ハワイ沖に存在する、海流の影響でプラスチックごみが堆積している場所を、国連に「国」として認めるよう申請したんです。「Trash Isles(ごみ諸島)」という名で、フランスほどの大きさがあります。

――もはや、プラスチックごみで出来た「島」ですね。

本田:まさしく。「国」の認定を受けるためには諸条件があるので、実際に通貨などを作り、国民を広く募集して20万人集めました。結果、太平洋上に「ごみの島国」が誕生したのです。世界中に「海洋プラスチックごみ問題」を突きつける契機となりました。海にごみを捨てれば「自然ときれいになるだろう」と期待して投棄する行為が世界中で起こっているようですが、汚いものが目前から消えるに過ぎないのです。

大型台風被害で「電信柱」と化したヤシの木

――問題の2つ目「温暖化」は、周期的な問題だと指摘する声もあります。

本田:地球の歴史を見ると、暖かくなったり、寒くなったりと周期的な気候変動を繰り返してきたことが分かります。だとしても、世界全体の気温上昇ペースが、昨今は異様に早い。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると2100年には、2000年頃から見て平均気温が最大4.8度上昇するとの予測があります。一部の温暖な地域でなく、世界全体の話ですからね。20年6月には北極圏(ロシア・シベリア)で38度が観測され、大きな話題になりました。

――温暖化で海水温が上昇すると、どんな影響が出ますか。

本田:「北極の海氷が溶けている」というニュースを見かける人が多いのではないでしょうか。氷は表面が白いので日光を反射しやすいのですが、溶けて黒い海面になると太陽の熱を吸収して海水温が上がりやすくなる。温暖化の進行がさらに早まるのです。すると起こる現象の一つが、台風の発達です(編注:気象庁気象研究所によると、海面水温が高いほど大気中に含まれる水蒸気の量は多くなり、より多くの水蒸気が上空へ運ばれるため、台風の勢力はより強くなると考えられる)。
最近で言えば2021年12月19日、フィリピンにスーパー台風(台風22号)が上陸し、300人以上が亡くなっています。

――台風ではなく、「スーパー台風」ですか。

本田:従来の台風とはケタ違いの威力なので、壊滅的な被害をもたらします。
フィリピンといえば、数年前にミンダナオ島を訪れた際に、自然の恐ろしさを痛感する景色を見ました。大型台風(2012年12月発生)に見舞われた後だったので、村はめちゃくちゃになっていました。辺りに生えているヤシの木から葉っぱが全てなくなっており、電信柱かと思ったくらいです。
一見、電信柱のように見える裸のヤシ(2013年4月撮影)
一見、電信柱のように見える裸のヤシ(2013年4月撮影)

   現地の人から「台風が来たのは初めて」と聞きました。備えを何もせずいたので、被害もおのずと大きくなってしまったのです。これまでなら進路を取らなかった場所にまで、台風が来るようになっているのかと驚きました。

ホッキョクグマが人里にやってくる

――3つ目「迷走する生物」。魚の話ですか。

本田:もちろん、魚もそうです。近年、不漁を伝えるニュースがよく出ていますよね。特に、値上がりが報じられているサンマはかつて茨城県で「バケツ一杯1000円」で売っているのを見かけるほど安値でした。地球温暖化で海水温が上がったり、海流が変わったりしたことで、これまでとは違うエサ場に移ったのではという指摘もありますが、「漁船」の進化も原因の一つではと見ています。

――どういうことですか。

本田:船がより高機能になれば、今まで行けなかった遠くの漁場に出て、たくさん魚を捕れるようになります。国際的に決められた国別の漁獲枠があっても、ある国がルールを守らずに乱獲すれば別の国が不漁に見舞われますし、生態系にも影響が出ます。食物連鎖が崩れると、やむなく住む場所を変える魚も出てくるでしょう。枠を定めるだけでなく、それらが守られるようにしなければならないですよね。

――魚以外の生物ではどうでしょう。

本田:ホッキョクグマを例に出しましょう。
ホッキョクグマは氷の上から、アザラシを捕ります。氷に開いている穴から顔を出したところをつかまえたり、上に乗って移動したりするので、氷が溶けてしまうと狩りがしにくくなる。アザラシを捕れなくなると食べ物を求めて、人の住む場所にやってきてしまうんです。

――ちょっとした変化が複雑に絡み合い、思わぬ形で現れますね。

本田:海にあるごみのほとんど全てが陸で生じているように、あらゆる環境問題は人に原因があります。一人ひとりができることはまさしく「ちょっとした」アクションですが、全員でやれば大きな結果につながります。例えば節電やごみの分別、残さず食べること、これらを徹底するだけでも「海の健康」に寄与します。今日からでも心がけたいですね。
2022年2月8日追記:誤りがあったため、本文を一部訂正いたしました。