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ボランティア支援「受ける力」を養う 東日本大震災・石巻の経験に学ぶ

   東日本震災発生から、来月で11年となる。未曽有の震災に襲われた地域では、全国から集まったボランティアが復旧活動にあたった。

   発災時、被災地では災害ボランティアセンターが設置される。そこに連絡して、支援を要請できる。だがボランティアに何を、どこまで手伝ってもらえるのか、どんな人が来るのか、被害が小さいと断られるのではないか――。あれこれ考えてしまうかもしれない。今回の「防災特集2021」では、ボランティアを取り上げる。

  • 東日本大震災で被災した石巻市で、清掃活動にあたるボランティア。2011年4月16日撮影(写真:AP/アフロ)
    東日本大震災で被災した石巻市で、清掃活動にあたるボランティア。2011年4月16日撮影(写真:AP/アフロ)
  • 東日本大震災で被災した石巻市で、清掃活動にあたるボランティア。2011年4月16日撮影(写真:AP/アフロ)

専門技術持つプロ

   東日本大震災で大打撃を受けた、宮城県石巻市。2021年3月末時点で市がまとめた、災害ボランティアセンターを通したボランティア支援は、NPOなど団体を合わせて29万2000人超にのぼる。

   石巻市社会福祉協議会生活支援課・阿部由紀さんを取材した。当時、災害ボランティアセンター(ボラセン)で、第一線で活動していた。発災から4日後の2011年3月15日にボラセンが設置され、泥出し、がれき撤去、家財道具の運び出しといった作業を担った。

   ただ、阿部さんは当初、被害が甚大すぎて「何から始めたらいいのか」戸惑ったという。

「初めは電源すらありませんでした。インターネットが使えず、発信する術がない。情報が得られず、周りの状況もわからない。ボランティアが来てくれるか、不安でした」

   石巻で会った東北福祉大の教員に依頼し、バスを手配して仙台から学生に手伝いに来てもらった。合わせてSNSで「石巻でボランティアを必要としている」と発信を頼んだ。

   ところが、被災住民の方が「ボランティアに何を頼んだらいいのか、分からない」。家の中に土砂が流れ込んだ、大木が入り込んでいる――見たこともないダメージに、「専門業者に頼むべきではないか」と思った人は少なくないようだ。

「でも、ボランティアには専門技術を持ったプロの人たちがいる。重機を動かして、重たい家財を撤去してくれる。当時の経験を通して、私自身が実感しました」

「来てくれるなら歓迎」の姿勢

2017年7月、豪雨災害に見舞われた福岡県朝倉市。ボランティアは重機を使いながら作業にあたった(同年9月、筆者撮影)
2017年7月、豪雨災害に見舞われた福岡県朝倉市。ボランティアは重機を使いながら作業にあたった(同年9月、筆者撮影)

   宮城県では2000年以降だけでも、東日本大震災までにマグニチュード(M)7以上の地震が4回起きている。中でも08年6月14日の岩手・宮城内陸地震はM7.2、東北5県で死者17人という痛ましい災害となった。

   以前から、宮城県沖での巨大地震発生が想定されており、石巻市民の間では地震や津波への関心が高かったと阿部さん。石巻市社協では2005から毎年、住民向けに災害ボランティアフォーラムを実施。地域の区長や民生委員を中心に、多い時には1000人ほどが参加して受援力をテーマに研修をしてきた。

   内閣府「防災情報のページ」に「受援力」という言葉がある。「被災地となった際にボランティアを地域で受け入れるための環境や知恵など、『支援を受ける力』」との説明だ。ボランティア活動に対する理解不足や、地域住民の外から来る人に対する警戒心から、ボランティアの力が生かされない例が、過去にはあった。石巻で震災前に実施した研修会では、こうした受援力の大切さを住民に説いてきた。それが、大震災後に地域がボランティアをスムーズに受け入れるうえで奏功したといえるだろう。

   石巻社協も、外部NPOの協力要請を受ける際に受援力を発揮した。

「我々が受援力をなくしたら終わりだと。支援を申し出る団体は調べたりしましたが、『来てくれるなら歓迎。我々の限界が支援の限界ではない』という姿勢で臨みました」

「顔見知り」を多くつくる

九州北部豪雨(2017年7月)で、福岡県朝倉市では災害ボランティアセンターが開設された(同年9月、筆者撮影)
九州北部豪雨(2017年7月)で、福岡県朝倉市では災害ボランティアセンターが開設された(同年9月、筆者撮影)

   ボランティア受け入れで難しいのが、人数調整だ。大型連休となれば大勢駆けつけてくれる半面、継続的に必要な人数を確保し続けられるとは限らない。

   2019年10月の台風19号。石巻市では321件が床上浸水した。家が水に浸かると、泥出しはもちろん床や壁の不要物の撤去、清掃、カビ対策と作業は多い。だがメディアの関心は、宮城県内でさらに被害が大きかった丸森町に向いた。結果、

「募集しても人が来ませんでした。東日本大震災の経験から我々は、1日の必要人数を予測できるようになりましたが、台風19号では、その数には全く足りませんでした」

   実は、ボランティア作業は「肉体労働」だけではない。時間の経過と共に、いろいろなニーズが生まれる。

「資機材の整理、倉庫に保管されている物資の数の把握。ほかにもお年寄りの話し相手として励ます、幼い子と遊んで、両親が家の片付けをできるようにしてもらうのも、立派なボランティアです。体力に自信がなくても、『やってみよう』と行動を起こしてほしい」

   一方で近年、大規模な災害が多発し、また新型コロナウイルスの感染がやまず十分な数のボランティアの確保は難しくなっている。

   解決策のヒントになるかもしれない事例を、阿部さんが語った。石巻市の沿岸部の一部地域ではもともと住民同士の結びつきが強く、震災後は互いに苦難を乗り切ろうと助け合っていたという。自らも被災した80代の高齢者が、地域の復旧作業に汗を流した。「自分は助かったから、困った人のために」と、昔ながらの「思いやり精神」を発揮していたのだ。

「災害前から顔見知りを多くつくっておくのが大事だと思います。それが、いざというときに『あの人は大丈夫だろうか』と心配してもらえる。信頼し合える関係を、日ごろからコツコツ積み上げておく」

   緊急時はもちろん、「受援力」が大切だ。だが何から何まで「人任せ」にして頼りっぱなしにするのは、どうだろうか。「困ったときはお互い様」となれる人間関係を普段から築いておくのが、何よりの備えになるかもしれない。

(J-CASTトレンド 荻 仁)