J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

「ウクライナ危機で小麦値上がり」は誤報? 日本の輸入先は北米が8割強

   ロシアのウクライナ侵攻で小麦価格が値上がりし、お好み焼きやたこ焼きなど「粉もの」にも影響が出ていると、大手メディアが報じている。これに対し、インターネットでは、「今回の小麦価格の値上げは北米の不作が主因なので、おかしい」という指摘が出ている。

  • お好み焼きの価格に影響?(写真と本文は関係ありません)
    お好み焼きの価格に影響?(写真と本文は関係ありません)
  • お好み焼きの価格に影響?(写真と本文は関係ありません)

ロシアの軍事侵攻が影響と言うが

「ウクライナ危機で小麦粉が急騰 大阪の粉もん値上げか 『ダブルパンチどころかトリプルぐらいな感じ』」(3月9日)
「たこ焼き・お好み焼きにウクライナ侵攻の影響...大阪『粉もん』飲食店、コスト急上昇」(3月12日)
「大阪名物『粉もん』値上げピンチ ウクライナ影響」(3月13日)

   これらはいずれも最近、主として関西発で全国紙や全国ネットのテレビで報じられたニュースだ。見出しだけ見ると、ウクライナの危機で小麦価格が上がり、「粉もの」と呼ばれる「たこ焼き・お好み焼き」の価格に影響が出ているかのようだ。

   「小麦輸出大国である両国(ウクライナとロシア)の有事で小麦価格が急騰し、原油高によりソースなどの調味料類の値段も上昇」「ロシアの軍事侵攻によって高騰する小麦や原油、大阪の粉もん文化にも大きな影響を与えています」などと報じられている。

   香川県ではテレビ局が、「ウクライナ危機で小麦の価格高騰 『うどん県』での影響は?」と心配し、東京でも、「ウクライナ侵攻の影響で、小麦の相場が依然として高く、うどん店やパン屋さんも頭を悩ませている」などというニュースが流れている。

米国・カナダの不作が原因

   しかし、日本で今、小麦の価格が上がっているのは、直接的にはロシアのウクライナ侵攻によるものではないようだ。

   農林水産省は3月9日に2022年4月期の輸入小麦の政府売渡価格を発表した。平均で1トン当たり7万2530円、前の期より17.3%引き上げられた。

   日本は小麦の9割を輸入し、売渡価格は政府が決めている。TBSは「値上げは悪なのか? 輸入小麦の高騰から考える『価値ある値上げ』への転換」というニュースで、日本の小麦価格の仕組みを丁寧に解説している。

   それによると、今やパンや麺類など小麦関連製品の1世帯あたり消費支出はコメを上回り続けている。そのため、小麦の安定的な供給および価格を実現するため政府がまとめて買い付け、製粉会社に売り渡す仕組みになっている。

   金額は半年ごとに見直され、直近6か月の買い付け価格の平均となる。今回の値上げ主な要因は3つ。(1)主要な産地である米国・カナダの高温、乾燥による不作、(2)小麦の質の低下による日本が求める高品質な小麦の調達価格の上昇、(3)ウクライナ情勢による供給の懸念。

   ただ、ロシアによるウクライナ侵攻が報じられたのは2月24日。今回の算定期間(2021年9月2週~2022年3月1週)においてウクライナ情勢の影響が反映された期間はわずかだとしている。

大変なのは今年10月以降

   小麦の輸出国は世界1位がロシア、5位がウクライナ。両国には黒土地帯と呼ばれる肥沃な農地が広がっている。

   しかし、日本の小麦輸入はロシアやウクライナには頼っておらず、米国産49%、カナダ産34%、豪州産17%。この3国から全量を輸入している。

   そんなこともあり、インターネットでは「ウクライナ侵攻で粉ものピンチ」という報道について、「フェイクニュース」「まだウクライナの影響は出ていないはず」「便乗値上げ」など、疑問視するコメントが出ている。

   さらに「粉もの」の場合、原価率が高いのは小麦ではなく具材のタコやイカだという指摘もある。

   ただし、今後のウクライナ情勢によって、世界の小麦価格が急上昇する可能性がある。今年10月に予定されている次期の改定では、世界的に小麦需要がひっ迫し、日本でも今春以上のアップが必至と予想する声が多い。このとき、「粉もの」にも本格的にウクライナの影響が及ぶことになりそうだ。