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古橋亨梧と3人の男たち サッカーW杯「ジョーカー」は海外組にいる

【連載】サッカー・カタールW杯 森保ジャパン勝負の1年

   サッカー日本代表・森保一監督の表情が、一変した。堂安律(PSV)に関する質問が、記者から飛んだ直後だ。

「日本では『堂安選手に態度の問題があり、(森保監督が)戦力外通告を出した』といううわさが流れました。そういうことがあったけれど和解して招集したのか、全くの事実無根なのか」
  • 古橋亨梧の躍動がW杯でも見られるか(写真:ロイター/アフロ)
    古橋亨梧の躍動がW杯でも見られるか(写真:ロイター/アフロ)
  • 古橋亨梧の躍動がW杯でも見られるか(写真:ロイター/アフロ)

伊藤洋輝「初招集」だが

   キリンチャレンジカップとキリンカップに出場する代表メンバーが発表された、2022年5月20日のオンライン会見のひとコマだ。森保監督は怒りというか、半ば呆れたような表情で、間髪入れずに「あの~、事実ではないので、どう答えていいのか」と苦笑しつつ、「これは言えますけど」と強調するように話し始めた。

「皆さん、色々な選手を招集して欲しいという基準を持っていると思いますけど。毎回、選手を選ぶ枠は決まっていますので、必ず選んであげられるとは、全ての選手に保証できません。良い選手が日本にはたくさんいます。その時のコンディション、戦い方で(日本代表)選手は変わっていく。そこは、(カタールW杯アジア)最終予選で日本の選手層が厚いということは、皆様に見て頂けたかと思いますし、そこは共有させて頂きたい」

   この言葉を聞いて、今まで森保監督率いる日本代表に選出されなかった選手が、カタールW杯メンバーに滑り込む可能性はかなり低いと思った。

   今回、伊藤洋輝(シュツットガルト)が初招集となったが、森保監督が兼務していたU-24東京五輪日本代表候補として選出されたことがある。同様に、今回は選出されなかったものの、カタールW杯出場をかけた試合に、けがの大迫勇也(ヴィッセル神戸)に代わって急きょ招集された林大地(シントトロイデン)も、2018年から21年にかけて森保監督が作り上げた「ラージグループ」に入っている。

   しかし、この「ラージグループ」を重視した姿勢が、メディア含め、見ている側にマンネリを感じさせているように思う。「サプライズが、ない」というわけだ。

「ラージグループ」重視のわけ

   一方で、筆者が以前インタビューした久保竜彦氏は、こう指摘していた。

「パッと(日本代表に)入ってすぐに結果を出す選手って、よっぽどのスーパースター」

   実際に、三笘薫(ロイヤル・ユニオン・サンジロワーズ)は代表で結果を出すのに時間がかかったし、古橋亨梧(セルティック)はまだ、残せていない。

   もちろん、見ている側からすれば、「古橋をベストのポジションで使っていない」となるのだろう。だが森保監督からすれば、古橋ありきではなく「日本代表のベース、コンセプトが大前提」のはずだ。それを徹底させるための「ラージグループ」の重視だと推察できる。

   さらに言えば、古橋が活躍しているのはスコットランドのリーグ。さらに上のレベルで活躍している南野拓実(リバプール)や鎌田大地(フランクフルト)も、与えられたポジションでプレーしている現状を見れば、全選手が適応していくしかない。

6月は海外組最後のアピールに

   そういった意味でも、筆者が6月2日のパラグアイ戦、6日のブラジル戦、10日のガーナ戦、14日のチュニジア/チリ戦で注目する4選手の一人が、古橋だ。

   イングランド、スペイン、イタリア、ドイツより所属リーグのレベルは落ちるものの、そのタレントに疑いはない。だからこそ、この4試合で、自身のクオリティーを示して欲しい。古橋がブラジル代表相手に、スコットランドリーグと同じようなプレーが出来れば、日本の新たなオプションになりうる。

   また、この4試合後に行われるEAFF E-1サッカー選手権は、国内組だけで日本代表が構成される。つまり当落線上の選手、特に海外組にとって、6月の4試合はカタールW杯メンバーへの最後のアピールでもある。だからこそ期待したいのが、下記の3選手だ。

伊藤洋輝:左利きのセンターバックは、日本サッカー界でも貴重。身長も188センチと申し分なく、ポリバレントであり、ボランチも出来る。過去に日本が屈してきたパワープレーは、ボランチを突かれた試合もあったが、伊藤がフィットすればその問題解決に前進する。最近、負傷が多い冨安健洋(アーセナル)の状態を考えても、今回の活躍次第では一気にメンバー入りに大きく近づく。

菅原由勢(AZ):伊藤よりも状況は苦しいだろう。ロシアW杯から不動の右サイドバックは、今回けがで招集を見送られた酒井宏樹(浦和)。さらに森保ジャパンには、川崎フロンターレ出身の選手が多く、そのコンビネーションを生かして酒井とのレギュラー争いを演じている山根視来(川崎)がいる。さらに言えば、富安はクラブでは右サイドバックでプレーしている。菅原の招集は、酒井のけがを受けてのものと考えられ、この4試合での活躍が必須と言える。

鎌田大地:森保監督のコメントを聞いていても、期待が感じられる。一方で、森保ジャパンでは4-2-3-1のトップ下以外でなかなか存在感を発揮出来ていないし、不動のトップ下という結果も残せていない。トップ下での「一発回答」はもちろん、おそらく様々なポジションでテストされると思うので、フランクフルト同様の結果を出して、「ラージグループ」へのマンネリ感・不安感を吹き飛ばして欲しい。

(選手敬称略)

石井紘人(いしい・はやと)
ラジオやテレビでスポーツ解説を行う。主に運動生理学の批評を専門とする。著書に『足指をまげるだけで腰痛は治る』(ぴあ)『足ゆび力』(ガイドワークス)など。『TokyoNHK2020』サイトでも一年間に渡り、パラリンピックスポーツの取材を行い、「将棋をスポーツ化した競技『ボッチャ』」などを寄稿。 株式会社ダブルインフィニティ代表取締役でもあり、JFA協力、Jリーグと制作したDVD『審判』、日本サッカー名シーン&ゴール集『Jリーグメモリーズ&アーカイブス』の版元。現在『レフェリー』の販売中。