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ガチャの最新事情 辛酸なめ子さんはデートでの活用を勧める

   steady.(ステディ)7月号の「辛酸なめ子の覗き見 OL妄想劇場」で、なめ子さんが「ガチャガチャ」の最新事情について書いている。昨今、駅構内や商業ビルの空きスペースに、すごい勢いで増えている気がするというのだ。

「ここ最近は大人向けの高クオリティーなガチャガチャも多く、日本の誇るカルチャーになりつつあります。また、コロナ禍で、店員を介さず非接触で買えるところも、需要が高まっている要因なのでしょう」

   ガチャガチャとは、カプセルに入ったミニ玩具などの自動販売機、または出てくるカプセル商品のこと。何が転がり出るかわからないトキメキ、おみくじ感覚が魅力だ。

「不景気な日本で物欲のミニチュア化が進んでいるのを感じます。欲しかった宝物やインテリアアイテムもガチャガチャになれば数百円で手に入ります」

   中身の多様化も進む。筆者は「最近見かけたシュール系商品」を紹介している。

   例えば〈ギャルが折った折り鶴〉。「グチャッとした適当な感じの折り鶴が入っていて300円。見本を折ったのはギャルでも、量産しているのはギャルじゃないそうですが...」

   〈じぃじ&ばぁばの便り〉(200円)は、見知らぬ老人からの直筆(の印刷)の手紙が入っていて、寂しい時に心の穴を埋めてくれるそうだ。

  • 約150台のガチャが並ぶ秋葉原の一角。カップルが1個ずつ買っていた=冨永写す
    約150台のガチャが並ぶ秋葉原の一角。カップルが1個ずつ買っていた=冨永写す
  • 約150台のガチャが並ぶ秋葉原の一角。カップルが1個ずつ買っていた=冨永写す

「流れ来てるよ!」

   なめ子さんは「大人の遊び場、秋葉原」で取材もしている。まずは駅構内で目撃した「驚きのシーン」から。円谷プロのフィギュアが出てくるガチャガチャである。

「ひとりの男性が、ガチャガチャの中身をなんとか探ろうとして、懐中電灯でカプセルひとつひとつを照らしていたのです...照らせば内側が見えそうで見えない感じ...出生前診断をする医師のような真剣な表情が脳裏に焼き付いています」

   筆者が次に向かったのはガチャガチャの専門店。ここで、あるカップルに注目する。彼氏のほうが出したいカプセルの希望を口にすると、彼女が「わたしがやれば出るよ!」と宣言。なんとその通り、1/5の確率をクリアして希望の品が出た。「イエイ! 天才か!」と彼。彼女は「流れ来てるよ!」と興奮気味である。

「『親ガチャ』というネガティブな言葉もありますが、人生に時折訪れるガチャの試練。そんな時、ガチャ運が強い彼女なら、常に最高の選択肢を引き寄せてくれるに違いない...そう彼の意識にインプットされたことでしょう」

   ちなみに「親ガチャ」とは、自分では選べない親の経済力や社会的地位で、スタートラインどころか人生そのものが大方決まってしまう、という若者の嘆き言葉だ。

   なめ子さんは「相手にとってガチャの女神になることが、心をつかむ秘けつかもしれません。ダメ元でも言ってみるものです」と、彼女の強気に感心する。

「何が出るかわからないサプライズ感は、吊り橋効果(不安や恐怖の中で出会うと恋愛感情を抱きやすいという現象=冨永注)にも通じ、恋心を盛り上げそうです。ガチャガチャ専門店はデートスポットとしてもおすすめだと他人事ながら実感しました」

結語は軽めに

   宝島社のファッション情報誌ステディは、〈仕事も恋も暮らしも...大切なのは私らしさ〉がキャッチコピー。ターゲットは20~30代の働く女性たちだ。

   コラムニストにして漫画家でもある辛酸なめ子さん。この連載にも毎回ユーモラスな挿絵が添えられ、130回目の本作では秋葉原での2シーンが再現されている。

   ガチャガチャだけで一本仕立てるには、それなりの基礎知識(下調べ)や観察眼、分析力が要る。そこは都市伝説やサブカルチャーにも通じたベテランの書き(描き)手だけに、過不足なく上手にまとめている。

   ガチャガチャの隆盛を「物欲のミニチュア化」と喝破する筆者。かといって突き放すでもなく、まん丸のカプセルに刹那の夢を託す客にもぬるい視線を送る。後半の秋葉原ルポは細部まで書き込まれ、面白く読ませてもらった。

   誰もが何度か経験する人生の岐路を「時折訪れるガチャの試練」と書き、「ガチャ運が強い彼女なら、常に最高の選択肢を引き寄せてくれるはず」と飛躍する。ひとつ間違うと読者を置き去りにするが、このあたりの強引さがコラムに勢いをもたらす。

   「物欲のミニチュア化」というパワーワードで無難にまとめる手もあったが、ぜいたくにもこれを序盤で使っているため、終わらせ方が難しい。筆者は秋葉原で目撃した「ガチャ運が強い彼女」の流れをつないで「デート中の一興としていかが?」という提案で締めた。テーマにお似合いの、軽めの結語である。

   数ある雑誌コラムをガチャに例えれば、開ける前からハズレとわかるようなものも少なくない。あれこれ楽しませてくれた本作は、もちろんアタリである。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。