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出産育児一時金が50万円に さっそく「値上げ」する産婦人科も

   国の少子化対策の一環として、「出産育児一時金」が2023年4月から増額される。これに呼応するかのように、全国の産婦人科で出産費用の値上げ表明が相次いでいる。コロナ禍で出生数が減って、産婦人科の経営は厳しくなっているが、インターネット上では「便乗値上げでは」という声も出ている。

  • 出産育児一時金、実際はいくら必要?
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すぐに「改定」の告知

   岸田首相は22年12月10日、記者会見で、出産育児一時金を現行の42万円から50万円に増額すると表明した。それからほどなくして、全国各地の産婦人科で「値上げ」の告知が続いた。

   例えば関東地方のある産婦人科は23年1月上旬、ウェブサイトで「分娩費用の改定」について以下のように記している。

<2023年3月31日までに分娩の方>
◆自然分娩     50万円~
◆予定帝王切開   60万円~
<2023年4月1日以降分娩の方>
◆自然分娩     55万円~
◆予定帝王切開   65万円~

   理由として、「国内のみならず世界的な物価価格上昇の影響により、医療機器や診察に必要な消耗品、また食材や光熱費等、診察に必要な全てのものが軒並み値上げとなっている」ことなどを挙げている。

   ネットを検索すると、類似の告知は全国各地の産婦人科で数多く見られる。中には、数は少ないが、「当院では出産育児一時金の増額に伴う分娩費の値上げは行いません」と、わざわざ断っている産婦人科もある。

地域格差が大きい

   出産育児一時金は1994年のスタート時は30万円。2006年に35万円、09年1月に38万円、同10月に42万円と増額。日本テレビ「news zero」によると、一時金が上がれば出産費用も上がるという「いたちごっこ」が続いている。

   朝日新聞は22年9月4日、「出産費用、高すぎる!」というフォーラムの記事を掲載。出産費用には全国でかなりの地域差がある(最高の東京は約55万円、最低の佐賀県は約35万円)、現行の「42万円」で出産費用がまかなえた人は、きわめて少ない、などを報告している。

   この記事の中で、値上げが続く理由として、産婦人科のコンサル業務を手がける川崎光雄さんは、24時間365日、安全なお産を続けていくためには、複数の医師による態勢が必要、という産婦人科の特殊事情を説明。加えて、産後うつや高齢出産などにも対応できる専門人材の充実、新型コロナウイルスなどへも対応できる院内環境の整備など、産婦人科を運営するためのコストも年々上昇していることを指摘している。

予算は増えていない

   産婦人科医の宋美玄(そん・みひょん)さんは2月3日、プレジデントオンラインで配信された「『50万円の出産育児一時金は小手先に過ぎない』 産婦人科医が岸田政権のあまりにズレた少子化対策に憤るワケ」という記事で、興味深い指摘をしている。

「そもそも出産育児一時金が42万円から50万円になったところで、政府の懐はいたみません」
「42万円が50万円になるということは、20%弱の値上げですが、ここ6年で2割以上、出生数は減っていますから、政府の出す出産育児一時金は、それほど増えていないのです」
「たとえば2016年の出生数は97万6978人でしたが、2022年は推計約77万人と考えて(厚生労働省「人口動態統計」より)、単純計算しても98万人×42万円=4116億円だったところが77万人×50万円=3850億円に。むしろ減っているのです」
「政府は、いかにも大盤振る舞いしているかのように喧伝していますが、実は予算を上げていないということを、まず、みなさんにも知ってほしいです」

   朝日新聞の記事で、産婦人科のコンサル業務を手がける川崎光雄さんは、「出産育児一時金としては、最低でも55万円以上は必要と考えます。加えて、東京と地方の費用格差も大きいので、全国一律の設定にも改善を求めたいです」と語っている。