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「あるスキャンダルの覚書」
名女優ジュディ・デンチ 「偏執狂」の演技がすごい!

   厳しい教育環境だが助け合う優しい二人の女性教師の友情物語だとゆったりと見ているうちに、とんでもない複雑な心理スリラーになって行くので驚く。そしてそのスリラーが凄い迫力だ。老年と若年、地味と派手、醜さと美貌、孤独と社交的と何から何まで異なる二人の女性。この二人が親しくなるところに何かが始まる予感がする。

(c)2006 TWENTIETH CENTURY FOX
(c)2006 TWENTIETH CENTURY FOX

   ロンドン郊外のセントジョージ総合中等学校の歴史教師バーバラ・コヴェット(ジュディ・デンチ)は生徒には大変厳しい。引退を間近に控えているベテラン教師だが、同僚教師にも常に批判的でズバズバ物を言うので煙たがられている。

   一人孤立しているバーバラはある日、転勤して来た美術教師シーバ・ハート(ケイト・ブランシェット)に注目する。派手でボヘミアンな服装は男子生徒の目を引き、同僚たちは眉をひそめる。孤独なバーバラは自分の「意中の人」だと、ひそかに興奮し、じっくり観察をして、日記に彼女のことを書き綴る。

   ある日、シーバのクラスで喧嘩が起こる。通りかかったバーバラが殴り合う男子生徒を怒鳴りつけ、騒ぎを収拾する。シーバは感謝して自宅に招く。しっかりと髪をセットし化粧を済ませ、花束を手にシーバ宅を訪れるバーバラ。迎えたのはシーバの夫リチャード(ビル・ナイ)と長女ポリー、そしてダウン症の長男ベン。幸せ一杯の家族にバーバラは違和感を覚えるが、食後にシーバから人生の不満や夢など秘密を打ち明けられて一層友情は深まるように感じた。

   しかし、この友情は一瞬の出来事で変わってしまう。学校で演芸会が行われた夜、姿の見えないシーバを探しに美術教室に向かったバーバラは、そこで以前喧嘩をやめさせた男子生徒スティーブン(A・シンプソン)とシーバがセックスしているところを見てしまったのだ。

   監督は「アイリス」のリチャード・エアー。前作もそうだが女性心理を描くのが上手い。ブッカー賞にノミネートされたゾー・ヘラーの原作を「クローサー」のパトリック・マーバーが脚色している。暫く前にもアメリカで裁判沙汰になった女教師と男子生徒のスキャンダル。この映画でも、発覚して騒がれるシーバと15歳の少年スティーブン。理性では分かっていて、切らなければならない肉体関係がどうしても断ち切れない。そしてそこでバーバラが大変身をして、本性を現す恐ろしい展開。

   この作品をここまで迫力あるものにしたのは「恋におちたシェイクスピア」でアカデミー賞助演女優賞のジュディ・デンチ。イギリスで最高の女優だ。彼女の偏執狂の演技が無ければここまで盛り上がらない。この役で今年は主演女優賞にノミネートされた。相手役の淫乱女教師のケイト・ブランシェットも「アビエイター」でアカデミー賞助演女優賞を受賞している。二人の名女優の共演は見ものだ。