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「リトル・チルドレン」
平凡な大人たちの子供じみた奇行

   都市郊外居住者の言動や生活様式を英語でSuburbia(サバービア)と言うが、アメリカ映画には「サバービア映画」というジャンルがある。

(C)MMVI NEW LINE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
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   代表的なものとしては、典型的なアメリカ中流家庭の崩壊を描く「アメリカン・ビューティ」や、都市の喧騒と汚さを嫌って郊外に住む平凡な夫婦の隣家に、殺し屋が越して来てからのドタバタを描いた「隣のヒットマン」がある。また「マグノリア」のように、穏やかな郊外の街で死の床に就く父と教祖まがいのSEX伝道師となった息子との対立や、子供のころクイズ王だったダメ男、天才と騒がれている少年などの「普通でない人々」を描く群像劇もある。

   このようなサバービア映画の登場人物は、普通に見えても、他者との交流や関係が上手く行っていない人たちが多い。そして皆、孤独で心に闇を抱えている。その意味では、この映画も正にサバービア映画。タイトル「リトル・チルドレン」は大人になれない子供たちの意味だ。映画冒頭の陶器の人形と時計が象徴している。

   舞台はボストン郊外の住宅街ウッドワード・コート。そこに住む平凡な主婦、サラ・ピアース(ケイト・ウィンスレット)が主人公だ。夫リチャード(G・エデルマン)の仕事が成功し、家を買って3歳の娘と越して来た。公園デビューするが、近所の主婦たちのセックス談義には溶け込めない。

   そこに珍しく男が現れる。子守をしながら司法試験の勉強をしているブラッド(P・ウィルソン)だ。その妻キャシー(J・コネリー)は映像作家として成功しているやり手の女性。サラは「ブラッドに触れたい」と思い、ブラッドも「サラとキスをしたい」と夢想する。

   大人たちの言動が子供じみている。夫リチャードがアダルトサイトで興奮して、取り寄せた女性のパンティを頭に被っているのをサラが見る。幻滅したサラは子供をプールで泳がせながら益々ブラッドに傾注し、二人の関係は一触即発状態になっていく。

   脚本・監督のトッド・フィールドは好評を博した前作「イン・ザ・ベッド・ルーム」で、ニューイングランドの郊外に住む初老の夫婦を通して、家族の愛や絆、そして最後に報復の暴力を描いていた。原作を書いた、共同脚本のトム・ペロッタ。この二人の脚本や監督によって、本作はアメリカ人の心の闇に迫る作品になっている。

   主演サラのケイト・ウィンスレットが良い。「タイタニック」での浮わついた人気は過去のものとなり、「アイリス」「エターナル・サンシャイン」の演技で注目されている。ブラッド役のパトリック・ウィルソンはミュージカル「フル・モンティ」や「オクラホマ」などでトニー賞の受賞者。ブラッドの出来の良い妻役は「ビューティフル・マインド」でアカデミー助演女優賞のジェニファー・コネリー。幼女暴行の前科者ロニーを熱演するジャッキー・アール・ヘイリー。「がんばれ!ベアーズ」の子役から長い中断時期があるが、見事大人の俳優で頑張っている。