J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

「君の涙 ドナウに流れ ハンガリー1956」
金メダルか祖国か、それとも愛?

   1956年のメルボルン・オリンピックでハンガリー男子水球チームは金メダルを獲得したが、その裏にこんな悲話があったことを映画は伝える。その1956年こそ、スターリン批判に伴いソ連の厳しい支配に対する民衆の非難が高まり、大規模なデモが行われた年なのだ。


   オープニング・タイトルと交互に水球のソ連対ハンガリー戦の様子が映し出される。ソ連選手の汚い反則、ハンガリーの得点を認めない審判。試合は、怒って審判にボールを投げつけたカルチ・サボー(イヴァーン・フェニェー)のハンガリーが負ける。更にロッカーにまで来て嫌がらせをするソ連選手を殴ったカルチは、ブダペストに着くと秘密警察に呼び出される。「ソ連に盾突くな、家族が可愛いなら」。でも楽天家のカルチは気にもとめない。彼の関心はオリンピック出場と、女の子と遊ぶことだけだ。カルチが旧友イミを大学に訪ねると、ハンガリー独立学生連盟が結成され、中心に可愛い女学生ヴィキ(カタ・ドボー)がいる。カルチは一目で彼女に恋をしてしまう。いつの間にか学生デモに巻き込まれたカルチは、熱望していたオリンピックなど祖国の自由のためなら犠牲にしても良いとまで思うようになる。エースではあるが、そんなカルチは要らないという雰囲気も選手仲間に出てくる。

   ソ連軍戦車を迎え撃つ民衆の市街戦が凄まじい迫力。続々と迫る戦車に火炎瓶で立ち向かう市民だが、戦車が燃え上がった瞬間に射殺され吹っ飛ぶ。ソ連軍は人間に対する感情が無い。アパートに戦車の砲弾が無数に叩き込まれ炎上する。1945年8月、日ソ不可侵条約を一方的に破棄し、背後から日本市民を虐殺したソ連軍の姿を彷彿させる。ロシアとなった現在もチェチェンに同じことをしているから、チェチェンのテロは止まないのだ。

   水球チームの勝ち進むシーン、ソ連との雪辱戦とヴィキが捕まり拷問され処刑場へ引かれる画面が交互にカットバックする。流れるハンガリー国歌「神よ われ敵と戦う時御加護の手をのべさせたまえ、すでに年久しく 不幸に追われたるこの民に喜びの日をあたえたまえ」の歌詞が実感として耳に残り涙がこぼれる。

   1956年に祖国を離れてハリウッドで成功しているアンドリュー・G・ヴァイナが企画製作し、39歳のブダペスト生まれの女性監督クリスティナ・ゴダが繊細なタッチで描き上げた秀作だ。