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政権の「心配ない」信じて国民大被害 ミャンマーのサイクロン

   中国・四川大地震があって、ややニュース性の薄れた感はあるが、ミャンマー南部を襲ったサイクロンの被害も甚大だ。死者、行方不明が国連推計で約10万人(ミャンマー側の発表では6万人)。150万人が支援を必要としているという。未曾有の大災害である。

   番組は「『閉ざされた被災地』で何が」と題して、なぜ、これだけの被害がもたらされたか、そしてミャンマーでいま何が起きているか、を探る。

「救助に専念しているとは思えない」

   前半は、被害の実態を、独自に入手したという映像を中心に見せて行く。

   デルタ地帯の町の状態は悲惨というしかない。強風と高潮の直撃で殆どの建物が崩壊。ドラムカンに入ったり、木に上ったりして難を逃れた人たちも、多くの家族を亡くした。飲むのはドロまじりの水で、コレラやマラリアなど、感染症の発生も報告されている。

   実は、サイクロン上陸の1週間前に周辺国から、「低気圧が成長して大型のサイクロンになる恐れがある」と警告されていたという。ところが、軍事政権は軽く受けとめ、「心配はない」と国民には強調した。これが、被害を大きくしたと見られている。

   住民は無防備の状態でサイクロンの直撃を受けたのだ。確かに、被災地の人々の家は貧弱で倒壊は避けられなかったかもしれないが、避難勧告があれば、少なからぬ人命が救われていたことは間違いない。

   軍事政権は、国際社会からの人的支援も拒み、被災地入口に検問所を設けて警戒する。「混乱に乗じて反政府勢力が入ってきたり、社会不安が起こるのを防ごうとしている。人命救助や支援に専念しているとは思えない」と、スタジオ出演の榎原美樹記者は語気を強める。

国民投票の最中だった

   番組後半は、頑なな姿勢を崩さない軍事政権と国際社会の対立に目を注ぐ。説明役は上智大学外国語学部の根本敬教授だ。

   1990年、総選挙でアウン・サン・スー・チー女史率いる民主化勢力に完敗した軍事政権は、選挙結果を無視して彼女を軟禁、独裁体制を継続する。これに対して欧米諸国は厳しい経済制裁を科す。以来、お互いは不信感を募らせてきた。

   「人的支援を受け入れたくないのは、何らかの形で政治利用するのでは、と疑念と恐怖心を抱いているから」と根本教授は述べる。

   今度のサイクロンが襲ったのは、軍事政権が、憲法をめぐる国民投票を行おうとしている最中だった。法的正当性のない軍事政権は、合法的存在になりたいがために必死に『賛成キャンペーン』を繰りひろげる。「国のため 国民のため 『賛成』を投じましょう」と、タレントに歌わせるテレビCMまで流す。国際社会は投票延期を求めるが、強行した。

   人権、人命軽視ともいえる軍事政権への国民の不満は、高まってはいるが、すぐに組織的政治運動になるとは思えない、と根本教授は見る。今は、自分たちの再建が急務だからだという。ただし、米不足が起きた場合、特にヤンゴンで米が手に入らない事態になれば、暴動の可能性がある。20年前、民主化運動の際に、何百万人の国民が参加するデモがあったときも、米不足が背景にあった、という。

   「軍政は力で抑えつける自信があるかもしれないが、流動的だと思う。また多くの血が流れるとすれば残念」と教授はしめくくった。

   サイクロンが襲ったデルタ地帯は国民が消費する米の6割を担っており、米不足が生ずることは確実視されている。状況は予断を許さないようだ。

   見終わって、軍事政権、独裁だけは御免こうむりたい、という思いを強くした。

アレマ

   <メモ:ミャンマー>外務省のサイトによると、と東南アジアのミャンマーは面積68万平方キロメートル(日本の約1.8倍)、人口5322万人。主要産業は農業。