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コンピューターで営業支援 その効果と不安

   「もうソフトウエアはいらない?」--個々のコンピューターではなく、サイバー空間にある巨大なコンピューターがすべてを処理して答えを出してくれる。どこにあるか分からないから、「クラウド(雲)」と呼ぶのだそうだ。

   サンフランシスコに本社のある「セールスフォース社」が生みの親。企業は本来、顧客情報、売り上げの分析、コスト計算、労務管理などを自前で管理している。しかし、システムの構築には金がかかる。資金力のない中小企業には手が出ない。

売り上げの伸び「年率5割」

   同社は、これら企業から送られたデータを整理して、結果を伝える「営業支援」で、業績を伸ばしている。全世界の4万8000社がこのサービスを利用しており、売り上げの伸びは年率5割という。カギを握るのがクラウドである。

   今(2008)年から同社のサービスを受けている東京・品川の大手事務機器メーカーは、同じソフト機能を自力開発するコストが6分の1に、また時間も6分の1になったという。「格段の違い」と社長はいう。

   東大阪のネジ販売会社ツルガは、クラウド導入で、2割の成長を遂げた。社員10人余の会社だが、営業の日々の状況を細かく入力することで、受注の確率から、個々の社員の営業のアナまでがはじき出される。従来1人でやっていた宣伝、電話、訪問を社員の特性に合わせて分離。営業効率を上げた。人事評価でもクラウドが生きるという。

   敦賀伸吾社長は、「取りこぼし部分がなくなった。加工された情報を瞬時に見ることができる。こんなソフトの自力開発は無理」という。社長は、自宅でも画面をチェックする。「見ていると落ち着く」という。

   ITジャーナリストの佐々木俊尚は、「自分のPCにデータを入力して送れば、クラウドはソフト計算して、返してくる。極端にいえば、こちらにはキーボードとモニターさえあればいい」という。

「機械と人間の関わり方が変わってくる」

   営業は昔から「顔が頼り」だった。それがいい面もあるのだが、一方でムダも多い。データがそれを削り落とす、というのが成長の秘密だ。セールスフォース社は検索大手グーグルと提携して、領域を拡げようとしている。扱う情報は、病院のカルテ、銀行の決済情報からビジネス契約書にまで及んでいる。

   担当者は「顧客にデータの新しい使い方を提案していく。中毒にさせるようなもので、顧客が満足すればさらにわれわれを頼りにする」という。

   問題は2つある。まずはセキュリティーだ。情報が集中しているからこそ、ハッカーには恰好の標的になる。すでに、担当者がハッカーにだまされて、銀行の顧客情報がもれるという事態が起こった。

   もうひとつは、企業がクラウドにすべてを頼ってしまうことだ。前出の敦賀社長も、「システムが止まったら、すべてがなくなってしまう」という不安を抱いている。

   国谷裕子は、「全てを機械に把握されているという気持ち悪さ。社員もすべてつかまれているというのも」という。

   佐々木は「本来自分だけが持つべき情報まで、他人に預ける不安は大きい。機械と人間の関わり方が変わってくるでしょうね」。

   コンピューターが人間を支配しているというSF映画がよくあるが、人間の従属はすでに始まっているのかもしれない。不気味な予感である。

ヤンヤン

   *NHKクローズアップ現代(2008年10月15日放送)