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弱小通貨とユーロ 通貨「勝ち組」の苦悩

   EUの単一通貨ユーロは、1999年の誕生以来、導入国が当初の11か国から16か国に増えるなど順調な拡大を続けてきた。それが今、試練の時を迎えているのだという。

どう達成する?導入基準の財政赤字抑制

   世界的景気後退のためである。対ドルでユーロは13.3%下落した。が、番組によると、これは重大事ではないらしい。スタジオゲストの田中素香・中央大学教授は「21世紀のヨーロッパの通貨秩序をユーロが維持した」と述べる。ユーロ圏に属さない周辺国の通貨が大きく落ち込んだことが、問題なのである。

   例としてバルト3国のリトアニアが挙げられる。この国は、人件費の安さを求めてヨーロッパ企業が進出、ユーロ圏の成長を支える『工場』の役割を果たしてきた。しかし、金融危機の影響で景気が急速に冷え込み、痛手をこうむる。そこでユーロ圏参入を目指す。ところが、マーストリヒト条約という障壁が立ちはだかる。

   ユーロ導入基準を定めるこの条約は、低いインフレ率、財政赤字の抑制を課しているのだ。厳しい経済情勢下、政府は増税に踏み切る。大統領は「ヨーロッパはひとつの通貨による経済圏を築きあげようとしている。われわれがその一員になりたければユーロが定める基準を受け入れなければならない。われわれは今その対価を払っているのだ」と語るが、国民の反発は激しい。

長期的には拡大の流れ

   ポーランド、ハンガリー、チェコなど旧東欧諸国の事情もあまり変わらないようだ。EUとしては、これらの国を取り込んで為替リスク、両替のコストをなくし、より強力な経済圏を目指したいところ。だが、導入基準を緩めるとユーロの信頼を失いかねない。ジレンマなのである。

   ユーロの今後について、長崎泰裕・NHKヨーロッパ総局長は「短期的に拡大は難しい。参加基準を満たすために各国政府が進める改革に国民が耐えきれるかどうか。当面は足踏み状態にならざるを得ない。ただ、長期的には拡大の流れが続く」とした。そして「長い間、戦乱に見舞われたヨーロッパは、その反省に立って第2次大戦後、統合を進めてきた。ユーロには、より恒久的な平和を維持して行こうという思いがこめられている。歴史に根差した政治的意思に基づいているかぎり、ユーロは、統合を進める上で大きな推進力になりうる」と説く。

   スタジオに戻って、国谷裕子キャスターが「同じ価値観で共通の道を歩めるかどうか、壮大な実験ですね」と言うと、田中教授は「ヨーロッパにはオバマ大統領のようなリーダーシップを発揮できる政治家がいない。それをEUの総合力で補って行けるかどうか、問われる局面がくると思う」と語った。

   視聴率を気にしないで放映できるNHKならではのテーマで、アジアでは『壮大な実験』は絶対ムリだろうなと思いつつ見るしか術はなかった。

アレマ

* NHKクローズアップ現代(2009年2月9日放送)