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突然地面が陥没! 「50年前」負の遺産が牙をむく

   今、全国各地である日突然、地面が陥没する事故が相次いでいる。その陥没の正体と対策に迫った番組から浮かび上がったのは、責任のなすり合い……

   2003年7月、宮城県北部を襲った震度6弱の地震。同時に道路などの地割れ、陥没が30か所以上あった。

「亜炭の廃坑」その広がり

   そうした陥没は地震の後も続き、今(09)年1月には、同県登米市の工場の床下に突然、大穴があいた。この陥没は周辺地域にも広がっており、取材で分かっただけでも9か所、うち7か所はここ半年の間に起きていたという。

   陥没の原因は一体何か? 亜炭を掘り出すために掘った廃坑をそのまま放置していたために風化が進み、土砂で耐え切れなくなったあげく、陥没していることが分かった。

   なかでも年間40件に達する陥没が起きているのが、宮城、山形、岐阜、愛知、岩手、福島の6県。とくに岐阜県御嵩町の陥没被害はひどく、いつ陥没するか分からない廃坑が市街地の地下6割に及ぶという。

   実際に藤谷萌絵記者が、御嵩町でかつて亜炭を掘っていたという人に案内され坑道の中へ入ると……

   5メートルほど進んだところで坑道は四方八方へ延び、その先はどこまで続くか不明という。

   しかも、採掘当時背丈ほどだった天井までの高さが、雨水などでもろくなったあげく落盤を繰り返し、背丈の2倍ほどになっていた。

   御嵩町は02年、亜炭廃坑の実態調査をし、その実態を町民に公開した。ところが情報公開をしたとたん、地価が下がり、土地が売れなくなるという深刻な事態も出て、今では一向に対策に乗り出さない町に批判の声も。

   もっとも対策といっても、埋め戻す以外に策はない。街の試算によると、その費用は1000億円を下らないという。年間予算60億円の財政規模ではお手上げ。

   矢面に立たされた町長は「国策として亜炭を掘った結果だから、町のエネルギー需要を満たしたとはいえ、町に責任があるというのはちょっとおかしい」と、矛先を国へ向けている。

   しかし、管轄する経済産業省石炭課は「掘った事業者が埋め戻すことになっています」と、つれない返答を繰り返した。

「基金を予防のためにも」

   そもそも50年前に採掘に携わった事業者が今どこに存在しているか不明だし、個人の採掘もあったのだ……

   国谷キャスターの代わりに登板した森本健成キャスターが「大きな地震があると怖いですね~。一体どうすれば……」と。

   この問いに、御嵩町の廃坑を調査してきた早稲田大理工学部教授の濱田政則教授は次のように指摘した。

「国と自治体が責任をタライ回しにするのでなく、責任は国にもあるし、地域住民の安全を守る自治体にもある。情報公開は第1ステップ。将来の対策、方向性を併せて町民に説明する必要がある」

   東北、東海、西日本の12の県で鉱害復旧基金を設けているが、これは被害が出た場合に使われる。濱田教授はこの基金を予防のためにも使えるよう早急に拡充すべきだという。

   いつまでも、大規模な事故が起きなければピクリとも動かない役所では困るのだ。

モンブラン

<メモ:亜炭>亜炭は、石炭化度の低い低発熱量(1キログラム当たり3000~4000カロリー)の石炭の一種。地下数メートルのところでも採掘できたことから、50年以上も前、戦中戦後の燃料不足時代に国策として、地方で燃料として使われていた。宮城、山形、岐阜、愛知の亜炭田が昔から知られているが、国に残っている記録によると、実際の採掘場所は全国広範囲に渡り、106か所に及ぶ。
* NHKクローズアップ現代(2009年3月4日放送)