<フィッシュストーリー>物語は今から3年後の2012年、彗星の地球衝突まで残り5時間を切った街から始まる。1975年に鳴かず飛ばずのパンクバンド『逆鱗』が最後に出したレコード『FISH STORY』を通し、主に四つの時代を交互に話が展開していく。
そのため、なかなか登場人物に感情移入することができない。人によってはストレスをためながら見ることになるかもしれない。また、その構成上、登場人物の障害、葛藤までもが時代ごとに分散されてしまい、力を失くしてしまっている。その点で、人間ドラマとしては不十分といえる。
しかし、四つの時代が綺麗に繋がった意外性に溢れる結末は、そんな欠点をカバーするだけの力がある。見終えたあと、上映中に感じていたストレスはある種の快感へと変わっていることに気がつく。同じ伊坂幸太郎原作の映画『アヒルと鴨のコインロッカー』のスタッフとあって、原作者の気持ちが良く理解できている。
また、原作では耳にすることのできなかった音楽が楽しめるというのは、映画における強みだろう。パンクバンド『逆鱗』の音楽が存分に味わえるし、映画全体においても観客を魅きつける効果を発揮している。
この映画は人間ドラマとしての力不足を、意外性のある結末や音楽の効果で補っている。もし人間ドラマとしてもきちんと成立していたら、近年稀に見るすごい映画になっていたかもしれない。
ちなみに、劇中に『リンダ・リンダ・リンダ』、『リアリズムの宿』の監督・脚本コンビ山下敦弘と、向井康介がなぜか俳優として出演しているので、探してみるのも面白い。
野崎芳史
オススメ度:☆☆☆