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美少女キャラが変身させたもの 町おこしと「その後」

<テレビウォッチ>秋田美人の「娘」が故郷に帰り今、町おこしに大活躍している。番組が取り上げたこの主人公の娘とは、イラストレーターが描いた美少女キャラクター。

   茅葺き屋根の民家が点在する農村風景に奇妙に溶け込んだ美少女キャラクターを求めて、今や全国から若者たちが『聖地巡礼』と称して訪れ、その経済効果も2年間で1億円に達している。

「聖地」に長蛇の列

   番組が取り上げたのは、みちのくの過疎の町が美少女キャラクターを主人公に『聖地』に変身したストーリー……

   秋田県の南部、周囲を山々に囲まれた人口1万7112人の羽後町。農業以外に目立つ産業もなく、これといった名所旧跡もない。冬には県内屈指の豪雪地帯となる。

   ただ、都会と変わった風景といえば茅葺き屋根の民家。江戸、明治期に建てられたものがまだ100棟以上もあり、県内で最も多く残されている。

   それにもうひとつ自慢の風景が。茅葺き屋根の民家の背後に広がる森や青い山々、都会では絶対に感じることが出来ない自然の息吹……

   もっとも、そこに暮らしている人たちにとっては日頃、貴重な財産とは思わず『宝の持ち腐れ』になっていたようだが。

   この羽後町で今、茅葺き屋根の民家と美少女キャラクターを組み合わせたイラストが爆発的な人気を呼んでいる。

   民家を背景に、座敷わらしに美少女を組み合わせたイラストや築300年の茅葺き屋根の民家の庭先で遊ぶ美少女達のイラストのポスターに人気が沸騰。

   美少女風の小野小町を描いたパッケージ入りの特産米『秋田こまち』も人気上々だ。

   イラストの背景に描かれたこれらの民家は、みな実在のものばかり。その民家の前には、『聖地巡礼』で訪れる若者たちで長蛇の列ができている。

   この変化のタネが播かれたのは2年前。播いた人は羽後町出身で、東京の出版社に勤務する山内貴範(24)。

「寂れて行くふるさとのことが頭から離れず、黙って見ていられなくなった。とくに気がかりなのは町に点在する民家、地域の貴重な財産が人知れず姿を消していくことだった」

   仕事の合間に全国の有名なイラストレーターを訪ね、美少女と民家を組み合わせて羽後町を世の中にアピールするイラストを描いて欲しい、と頼んで回った。

   努力の結果、40種類の観光用ポスターが完成した。このポスターが、ネットで話題になり、『聖地巡礼』の若者が続々と羽後町を訪れるようになった。

反対の声を説得

   ところが町では、伝統と美少女を結びつけるのはおかしいという反発の声が噴出する。

   こうした反発の声に一部の人が立ちあがった。「地域資源に新しいインパクトのある付加価値を組み合わせることでビジネスチャンスは拡大する」と反対者たちを説得してくれたのだ。

   一時は困惑した山内もいまでは「美少女イラストが地域に根付き始めたのを実感している」という。

   番組には、映画『殯の森』でカンヌ国際映画祭のグランプリ(審査員特別大賞)を受賞した映画作家で、自身も奈良の町おこしを手伝っているという河瀨直美が生出演した。

   キャスターの国谷裕子の「このストーリーをどうご覧になりました?」に、河瀨は次のように……

「地方の人たちは無いものねだりしている。町のあるものを探し、それを繋げたら何ができるか。それができればいい。ただ、最初はパッと打ち上がった花火。必ず落ちてくる時がある。その時こそ頑張ってほしい。これからは『継続』がテーマになっていくのでしょう」

   確かに、いつまでも美少女キャラクターと茅葺き屋根の民家のイラストではもつまい。『美人』はすぐ飽きるという話もある。

   さらにインパクトある付加価値を加え、この人気をどう継続させるか。若者たちに背負わされた課題はかなり重そうだ。

モンブラン

* NHKクローズアップ現代(2009年12月2日放送)