<テレビウォッチ>デフレ不況が進む中、中堅スーパー業界で『安売りの次の一手』に打って出て、奏功している店が出てきた。
パートやアルバイトによる人件費節約とは逆に社員中心に軸足を移し専門知識を生かして顧客を増やしているスーパーや豊富な品揃えを顧客にアピールして売り上げを伸ばすスーパー……。
歯止めのかからない安売りで勝負するのはもはや限界、今やポイントカードの『効き目』も薄れてきている。
「物が売れない時代に消費者の心を掴むヒントはどこにあるか」。番組では、小売業界に詳しい中央大学ビジネススクールの中村博教授がゲスト出演し、そのヒントを探った。
スーパー業界では、昨2009年1年間の全体の売り上げが21年ぶりの低水準に落ち込む見通しという。
そのデフレ不況を裏付けるように、全国の消費者物価指数は昨年2月以来10か月連続で前年の同じ月を下回った。
そんな中で他のスーパーとは違う魅力をアピールし、前年を上回る顧客を呼び込み売り上げを増やしている中堅スーパーが九州にある。
福岡を中心に33店舗を展開する『ハローデイ』。その魅力とは、圧倒的な品揃え。扱っている味噌が500種類、醤油も500種類という。
顧客が「○○が欲しい」という商品はすべて揃え、それも1週間以内に入荷させる徹底ぶりだ。
こうした顧客から寄せられる要望は月間500商品に上り、手作り商品の場合はメーカーに直接足を運び、取引を依頼するケースも。
当然コストはハネ上がる。しかし、品ぞろえ戦略を徹底したことで顧客数が増加、売り上げ増に結びついている。
同社の執行役員は「顧客の満足度、信頼度が少しずつ高まっている。効率性も追求したいが、それ一辺倒ではいけないと考えている」と、従来型の効率販売からの脱皮を語る。
国谷キャスターが「こうした顧客のリクエストにすべて応える戦略はどう思われます?」と。これに中村教授が次のように答えた。
「この店舗には私も行ってみたことがあります。ぬいぐるみがあったりして、入って楽しい。ワクワクするので財布のヒモも緩みます。要望する顧客はいいお客。優良顧客の上位3割が全売り上げの8割を占めているので、この3割を大切に維持していくことが重要ですね」
一方、小売りの『原点』に立ち返り、消費者の心をしっかりつかんで売り上げを伸ばしているスーパーもある。
東京を中心に30店舗を展開する中堅食品スーパーの『オオゼキ』。1年近く、月間の売り上げが前年の同じ月を上回っている。
とくに1平方メートル当たりの売り上げは、業界平均に比べ5倍以上という。その秘密は『社員力』。
スーパー業界では、3割を正社員、7割をパートやアルバイトに依存し、コストを抑えているのが普通だ。
逆に『オオゼキ』では、人件費を倍以上かけて正社員を7割にし、仕入れから商品の配置、販売方法までこれら正社員に任せている。
今は少なくなった昔の小売専門店のスタイル。デフレに伴い商品の価格も下げ続けているが、顧客へのキメ細かい対応で買い物点数を増やすことに成功し、売上増に繋げているという。
国谷は「改めて、消費者と向き合う中で人の力、『人間力』が大きいことを感じさせられるのですが、この人の力はいろんな分野にも応用できますね~」。
これに応えて中村教授は「そうです。厳しい状況の中で発想力が問われ、顧客を知る努力を続けなければいけない。終わりのない仕事ですね」と。
昔あった『人間力』に依存した販売と極力人間を排した効率販売。どちらに軍配が上がるのか、デフレ不況が答えを出してくれるのかも……
モンブラン
* NHKクローズアップ現代(2010年1月13日放送)