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「無料」なのに収益800億円 その圧倒的力と行動経済学

<テレビウォッチ>主力商品が無料サービスなのに、何故か高収益をあげている―そんな『無料ビジネス』が今注目を集めている。

価格破壊の波

   そういえば、グーグルの検索システムを利用してもおカネを取られない。通話料金ゼロの国際通話サービスもあり、意外なところで無料化も……

   背景には、最新経済学が明らかにした『ゼロ』がもつ不思議な魔力に加えて、IT界に絶え間なく打ち寄せる驚異的な価格破壊の波があるという。番組は、インターネットの世界で起きている無料ビジネスの舞台裏を取り上げた。

「タダで何かをもらうと悪い気はしませんよ。『タダより高いものはない。どこかで違う形で払わされているに違いない』と考えてしまいます」

キャスターの国谷裕子が出だしでこう語りながら、「でも無料ビジネスは、広告収入で成り立つ商品やお試しサンプルなどで商品に転嫁するのとは決定的に違うようです」と、次のような例を……

   世界の技術者と結んでコンピュータソフトの開発を手掛けている日本の会社が今、フルに活用しているのが国際無料通話サービス。従来なら年間500万円もかかる国際通話料金をいっさい気にせずに、海外技術者との事業の打ち合わせができるようになった。

   パソコンさえあれば海外と通話できる無償通話サービスは7年前から始まった。現在、世界中で5億2000万人が利用している。

   ところが無料にもかかわらずサービスを提供している会社は年間800億円もの収益を上げているという。

   不思議なその収益源。いったい何処から、どの様にして??

   実は、パソコン同士の通話に飽き足らず、固定電話や携帯電話で通話を望むユーザー向けに、月額数百円からの有料コースも設けているのだ。

   有料コース利用者は全体のわずか10%以下だが、膨大な無料通話サービスを支えているのだという。

   では、どうしてこの手法が可能になったのか、番組によると2つの背景があるという。

「タダ」で分別なくすことも…

   ひとつはIT界で巻き起こっている凄まじい価格破壊の波。コンピュータの内部で情報処理を行う集積回路や記憶装置、それに通信回線が飛躍的に性能を高め、その結果、価格が驚くほど安くなっている。この価格破壊が無料ビジネスの原動力になっているのだ。

   もうひとつの背景は、ゼロの魔力。人間の非合理的な金銭感覚を追究してきた行動経済学のダン・アリエリー教授(デューク大)が2007年に発表した論文の中で「無料という価格は従来の経済学では説明のつかない特別な価格」であると指摘し注目された。

   教授が行ったのは2種類のチョコレートを使った実験。一般的なチョコを1個2円で、高級チョコを1個27円で売りに出した。客が圧倒的に選んだのは高級チョコだった。

   次に、両方とも1円づつ値下げして売りに出したところ、結果は同じだった。価格差が同じなら消費者の行動は変わらないとする従来の経済学が予測する通りだった。

   ところが、もう1円づつ値下げし一般的なチョコをゼロ円にしたところ、価格差は変わらないのにアッと今に一般的なチョコが「売れた」という。

   教授は「『無料』が人々を捉え、魅了する力は強力で、分別を無くし不利な選択さえしてしまうこともあるほど」という。

   アメリカでは、医師が患者の症状や検査結果を記録する無料の電子カルテシステム医師たちが一斉に利用し始めたという。これまで安くても10万円以上していた電子カルテシステムなのに無料で、一部の医師から有料コースで料金を取るということもしていない。

この無料システムの収益源とは何??

   実はまだ収益をあげていない。医師が書きこんだ患者の様々な症状や副作用などの医療データを、個人情報を除いて将来、製薬会社や医療機関に高値で売ろうという狙い。

   経営不振になると何処へ個人データが悪用されるか分からず、タダほど高くつく……の喩になる恐れも。

   予測のつかない社会になったものだが、番組に生出演した早大大学院の野口悠紀雄教授は次のように危惧する。

「無料化はこれからどんどん進んでいく。その場合、従来、有料で収益をあげていた産業が危機的状況に追い込まれる可能性も……」

衣食住が無料になることはないだろうが、さてどんな分野で無料化が進むのか……

モンブラン

*NHKクローズアップ現代(2010年3月10日放送)