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「アスペルガー症候群」もっと活躍の場を作れないか

   人の気持ちや表情を汲みとることが苦手で、人とうまくコミュニケーションが取れない人はどこにでもいるが、それが原因で退職したり、うつ病になったりとなると話は別。実は、脳の機能に障害がある『アスペルガー症候群』なのだという。最近、そうした障害に気付いたという人が急増し、『アスペルガー症候群』という新書本が異例のベストセラーになっている。

2人の歴史的偉人

   アスペルガー症候群は『負』の面ばかりではない。この症候群は一つのことに非常にこだわるという特徴があるが、それがすぐれた数学的な思考力、集中力につながっていることが多いという。

   番組は、そうしたアスペルガー症候群の人たちに社会がどう接し、活躍できる場をどうつくっていくか取り上げた。

   「脳に障害」というだけで偏見を持たれる日本。そんな社会では自分から人と話すのが億劫になり、孤立しがちだ。しかし、こんな人たちもいる。番組冒頭、森本健成キャスターは2人の歴史的偉人を挙げた。アンシュタインとニュートン。いずれもアスペルガー症候群だったという研究結果を、イギリスの科学雑誌『ニュー・サイエンティスト』が取り上げたという。

   この症候群の特徴は「相手の気持ちを推し量れない」「会話がうまくできない」「極端にこだわりが強い」ことなどで、他人とのコミュニケーションが苦手なことが脳の障害と気付かず、長い間、苦しんでいる人が多い。

   7年前まで小学校の図書館で働いていた32歳の主婦は、思ったことを正直にすぐ口に出すので子供たちには大人気だったが、本音とタテマエの使い分けができず、同僚や上司とうまくいかず、結局、辞めることになってしまった。4年前にアスペルガー症候群と診断されたが、今も夫が仕事に出かけたあとは、近所付き合いもほとんどせず一人で過ごしているという。

社会進出

   ここで、森本キャスターの第1の疑問。

「性格的に人付き合いが苦手な人とどう違うのか。具体的にどんな障害なのですか?」

   番組に出演した脳の機能とコミュニケーションが専門の京都大霊長類研究所の正高信男教授は次のように説明する。

「言葉の意味を字義通りにしか受け止められない。単語が配列された文章になってくると、たとえば皮肉が全然理解できない。こだわりが強いために時間を非常に順守する。日課がきちっと決まっていて、1分でもずれるとカッとなったりする。ただ、障害と性格的な間に決定的な基準があるわけではなく、多面的、総合的に判断される」

   この障害がマイナスばかりではないことは触れたが、アンシュタインの例でみても、集中力が高くすぐれた能力を持った人が多いことは確かだ。

   番組では、その能力をすでに企業で発揮し、業績に貢献している人のケースを取り上げた。都内のIT企業人事部。1年半前にアスペルガー症候群の37歳の男性を採用した。採用の決め手は優れた文章力。就活中の学生向けに会社紹介のブログ作成をまかされているが、すぐに役立つと就職サイトで評判となり、アクセス数はナンバー1という。

   数学や論理思考の優れた人もいる。大学で助手をしていたが対人関係がうまくいかず、うつ病になって退職した男性は、苦手な法律の条文を数式に置き換え、わずか1週間の勉強で難関の不動産取引の国家試験をパス。現在、知人の不動産会社で不動産運用に関する分析の仕事に従事している。

   正高教授も「障害というと負の側面が注目されるが、同時に障害を持ったがゆえの力、強みを発揮する。それに着目した非常に積極的な試み。日本では稀有な例だと思います」と評価する。さらに、「日本の根強い横並び意識が今の閉塞状況を生んでいる。苦手の部分には目をつむり、出る杭を打つのでなく伸ばすことが大事です」と締めくくった。

モンブラン

NHKクローズアップ現代(2010年4月21日放送)