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「このクラスの生徒に娘は殺された」静かな狂気を松たか子好演

(C)2010「告白」製作委員会
(C)2010「告白」製作委員会

<告白>湊かなえのデビュー作にして、第6回本屋大賞受賞のベストセラー小説を映画化。『嫌われ松子の一生』や『パコと魔法の絵本』の中島哲也監督が、独特の演出で緊張感溢れるドラマの中に人間の哀しみ滑稽さを滲ませている。静かな狂気に満ちる松たか子の演技にも注目だ。

悲しくて残酷な復讐

「娘は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」

   わが子を校内で亡くした中学教師・森口悠子(松たか子)の生徒たちへの告白から映画は始まる。異様な空気満ちるホームルームの中、淡々と告白を進める森口。2人の犯人の名前は出さず、少年A、Bとしたものの、それはクラス中の誰もが特定できる言い方だった。

   警察に突き出せば、少年法に保護され、無罪放免にもなりかねないことを危惧した森口は、想像を絶する方法で処罰を始める。

   この映画を要約すれば、森口による少年A、Bへの復讐劇ということになるが、森口自身の手で少年たちを痛めつけたりはしない。間接的で巧妙な復讐、それがこの映画を面白くさせている。森口は冒頭の告白シーンで教師を辞め、以降、ラストシーンまでほとんど出てこない。それでも少年たちは確実に追い込まれていく。

   1年生最後の日に行われた告白後、犯人の一人である少年Bは自宅に引きこもるが、Aは2年生になっても登校を続ける。しかし、ある日を境に、クラスメートによる制裁という名のAへ嫌がらせが始まった。クラスメートたちにはAをいじめる理由があり、正義感から始まった制裁がやがて遊戯へと変わっていく。その様が人間の哀しみを見事に表現していた。

   映画の中盤では、引きこもり続ける少年Bとその母親(木村佳乃)にもスポットが当てられる。2年の新しい担任は、熱血漢を絵に描いたような新任の若い男性教師で、森口の告白のことは知らない。Bの悩みを聞いてやりたい、教師としての使命感からBの家庭訪問を始める。それが逆にBとその母親を追い詰めていくという展開は素晴らしく、最終的にBがとった衝撃的な行動の動機付けにもなっている。

音響効果が素晴らしい

   この映画に悪者はいない。森口、少年A、B、クラスメート、新任教師、彼らの行動は誰かを傷つけているのだが、その理由が観る側にはわかっている。だから、どんな残虐な行為に走ったとしても、観客は理解してしまう。そこが痛々しく、胸が締め付けられる。

   本作は森口先生が告白を始めるファーストシーンから、映画の魅力に満ちている。大画面の迫力以上に音響効果がすばらしいのだ。ホームルームのささやきやざわめきが、四方から聞こえてきて、まるでこのクラスの一員になったかのような錯覚に陥る。その効果で告白の衝撃度が何倍にも増していく。他にも映画ならではの魅力が満載の『告白』、劇場での鑑賞を強く薦める。(R―15指定)

野崎芳史

   おススメ度☆☆☆☆