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北方4島インフラ整備で進む「ロシア領化」

   ポツダム宣言を受諾後にソ連軍に一方的に侵略され、65年を経た今も、日本の領土でありながらロシアの占領が続いている北方領土。交渉進展は見えず、返還の兆しは全くない。

   それどころか、ロシア政府は空港や港湾、道路のインフラ整備を進め、7月にはロシア軍が択捉島を中心に大規模軍事演習を行うなど、実効支配を強めている。

   北方領土は今どうなっているのか。取材班が入り、変貌著しい現地の姿を取り上げた。

占領移住民の孫、ひ孫が住む島

   北方4島では65年前の占領直後に移住した人たちの孫が育ち、ひ孫が生れている。豊富な日用品を揃える商店、液晶テレビまで打っている電気店、最新の携帯電話が普及し、ほとんどの島民が持っているという。

   かつて重症患者を日本へ搬送されたこともあったが、択捉島に今年5月、総合病院がオープンした。新たに建設された学校ではパソコンの授業も行われている。

   島民の男性はこう言う。

「すっかり昔とは変わったよ。皆ここの生活に満足している」

   若い女性も「日本への返還は当然反対ですよ」と言う。何をもって「当然」というのか、理不尽な占領という意識は頭の隅にもないのか……。

   国後島、歯舞群島、色丹島、択捉島。日本がこの4島を日本固有の領土と強く主張する根拠は、1855年の「日魯通好条約」。この条約には択捉島の北側を両国の国境線とすると定めてある。その択捉島を含めた4島には、戦前1万7000人の日本人が暮らしていた。

   日ソ中立条約を一方的に破棄したソ連軍が、ポツダム宣言受諾後にもかかわらず、突如、島に侵攻して占領。島にいた日本人のほとんどが退去させられた。

   取材班はサハリン州にある国立公文書館で、占領後の北方領土の様子を撮影したフィルムを見つけた。ソ連国営テレビが撮影し放送した150分間におよぶフィルムと原稿で、国境警備隊に所属する少年団を撮影したものや、仕事を求めて色丹島へ向かう船に乗る集団移住の人たちが撮影されていた。

   北方領土の占領史を研究しているサハリン国立大学のミハイル・ヴィソーコフ教授は、「実効支配には軍隊だけでは不十分で、民間人を移住させる必要があった。そのための効果的な政策が必要だった。自らの意志で移住するよう仕向けたのだ」と解説していた。

540億円のクリル社会経済発展計画

   このソ連の実効支配の戦略は、現在のロシア政府にも引き継がれている。ロシア政府は順調な経済を背景に、実効支配戦略を強化するため「クリル社会経済発展計画」と呼ばれる北方領土を中心とした開発計画に着手。2万人に満たないところに総額179億ルーブル(540億円)を投じ、インフラ整備を進めているのだ。

   キャスターの国谷裕子は「島に住むロシア人にすると、北方領土がふるさとといえる場所にどんどんなってきていますね」と言う。

   2年前に北方4島に行った法政大学の下斗米伸夫教授がゲスト出演。「どうすれば北方4島に変化をもたらすことができますか」という国谷の問いに、次のように答えた。

「これまでのような単純なやり方ではなく、複眼的な思考が必要と思う」

   しかし、いいところだけ取られて、返還交渉となると知らん顔ではもはや済まされない。

*NHKクローズアップ現代(2010年8月4日放送「戦後65年 北方領土で何が」)