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詩集『あきらめないで』佐野有美「不便だけど不幸じゃない」

   人と比べ持っていないものを嘆き悲しむのではなく、持っているものすべてを使いこなし明るく生きる。そんな20歳の女性を番組が取り上げた。

   愛知県豊橋市の佐野有美。明朗闊達な若さ溢れる女性だが、両手と右足はなく、わずかしかない左足先には3本の指だけ。生まれたときからだという。有美の将来を不憫に思った父親は、まだ幼女のころ寝ている有美の口をふさごうと思ったことがあったという。

「(手が)口の近くまで行ったときに、有美がめをパッと開けて『もっと生きたいよ』という表情で見つめ返してきた。それで、自分は何をしているのだと我に返ったのです」

   両親はその瞬間に「娘と共に生きる覚悟を決めた」という。以来、持てるものすべてを使いこなすすべを親子で考えてきた。人の手を借りずにシャツを着る5歳の時の映像は圧巻だった。母親が考案した2本の棒にシャツの両側の裾をひっかける道具を使い、一人でシャツを頭からかぶって着ることができる。また、3本の足指で掴んだフォークを回しパスタも食べられるようになった。

手足はないけど「声がある」

   小学校に入学し、運動会では徒競走に挑戦。友達には遅れをとるが、最後までお尻と短い左足を使って走り切った。

   そして中学生。多感な思春期を迎えて、人と違う身体にあらめて愕然となり、人との接触を拒んだ時期もあったが、乗り越えたのは高校に進学してチヤリーディング部に入部したからという。

「部員一人ひとりが生き生きと輝いていて、求めるものがすべてあったのですぐに入部した」

   ただ、部員の仲間と一緒に踊るわけにいかない。見つけた答えが「私には声がある」だった。仲間の演技前に挨拶を担当することに。高校最後の文化祭では、仲間に助けられ皆に加わって最初で最後の踊りを披露した。

   この声を生かそうと、昨年からボイストレーニングの教室に通い、今年3月から月2回、地元FMラジオ局でパーソナリティー番組のアシスタントをしている。6月からは社会人として年金事務所で働くようになった。

「感謝という花を両親にプレゼント」

   有美はこの10月、詩集『あきらめないで』を出版した。その中の『ありがとう』という1編を司会の赤江珠緒アナが朗読した。

「不便だけど不幸じゃない そう思って生きてきた 誰も恨んでいない 両親も恨んでいない 神様も恨んでいない   いっぱい泣いて笑って転んで起き上った 自分で生きるって決めたときから強くなった だけどどこかに確実に存在した 手があったらな 足があったらな 心の奥底にしまいこんでぐつぐつ煮える感情 だけどからだに埋め込まれた時限爆弾は破裂しなかった ある日感謝という花に変わり両親にプレゼントすることができた 20年間育ててくれてありがとう」

   朗読を終えた赤江が「運命と向き合いながら、まっすぐに育ったお嬢さんですね~」と声を上げ、山口一臣(「週刊朝日」編集長)がこれに次のように答えた。

「声があるんだと気付いて、そこを伸ばそうと努力している。まだ20歳なのにいろんな体験をして今があるのだと思う」

   彼女から見ると、5体満足に生まれたことすら贅沢なのかもしれないのに、自ら死を選んだり、「あれがない、これもないと時限爆弾を爆発させた」(小木逸平アナ)事件を起こすなどは論外……。