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うつ「認知行動療法」再発抑え英国で実績…どんな治療法?

   うつ病患者は100万人を超える。治療はこれまで抗うつ薬が中心だったが、「薬が効かない」「よくなっても半数が1年以内に再発」「慢性化や自殺につながる」など限界がいわれる。

   そんななか、高度なカウンセリングを取り入れた療法が注目されている。「認知行動療法」といわれ、「自分はダメだ」というマイナス思考の原因を探り、うつを心から治すというものだ。英国での実践では、1年後の再発率が薬物だけの治療だと44%だが、認知行動療法と併用すると27%にまで抑えられた。どんな療法なのか。

プラス思考引き出すカウンセリング

   臨床心理士が若い会社員に聞く。

「自覚症状はありますか」
「頭の中が萎縮していくような感じ」「自己嫌悪」「人ができないので任された仕事ができない」…。
「では、仕事のミスの数は?」
「350件のうち3、4件。1%ですね。あとの99%はできている。いわれるまで、そういう思考はなかった」

   千葉の主婦。5年前2度目の結婚をして出産。子育てのストレスから、「自分の人生は不幸だ」とうつ症状になった。抗うつ薬でかえって悪化、自殺まで考えるようになった。

「嫌な思い出ばかりが頭にのぼって……」

   女性カウンセラーは思い込みの原因をさぐった。はじめは前の夫から受けた暴言で傷ついたといっていた。しかし、やがて父親の話が出た。父から勉強が「なぜできない。ダメなやつだ」と言われ続けた。最初の結婚も「あんな男は必ず失敗する」と反対された。その通りになって、いよいよ「自分はダメだ」と考えてしまうようになった。

   カウンセラーはこれまでに達成できたものを数え上げていく。希望の大学に合格した。2度目の結婚で素晴らしい伴侶を見つけたではないか。彼女は次第にプラス思考になって、1年後、彼女は「父も子どものことを思っていたんだなと思う」と話すまでになった。

「ものの見方が変わって、過去は過去と整理がついた」

   集団の療法もある。東京・港区のクリニックでは、週に1度、うつのサラリーマンたちが互いにアドバイスしあう。

「人ごとではなく、自分ならどう考えるか」

   この結果、再発率を22%まで抑えることに成功した。

   どの場合も言葉に出すことがカギだ。

「言葉にすることで客観的に遠くから見ることができる。大事なものは仕事だけじゃないとポジティブな面が出てくる」(精神科医の大野裕・慶大保健管理センター教授)

今後はインターネットでもOK

   うつは完璧主義の人に多い。失敗すると「ダメだ」と全否定になりやすい。しかし、仕事はていねい、気配りもある。「カウンセリングは、そのバランスをとる手助けだ」と大野教授はいう。

   厚労省もこの効果を認めて、昨年から健康保険の対象に加えている。ただ、ほとんど普及していない。大坂の神経科医団体の調査では、認知行動療法をとっている診療所はわずか2.1%だった。理由は2つ。診療報酬が通常療法の半額以下であること。もうひとつは、カウンセリング技術をもつ医師が少ないことだ。ある医大の医師は「大学では教えないからできなくて当たり前」と話す。

   一方、臨床心理士は2万人いるが、民間の資格で医師でないため、診療報酬が出ない。収入が不安定で、年収300万円以下が3割という調査もある。カウンセラーに国家資格を求める声も出ているが、せっかくの担い手を生かすシステムがない。

   大野教授はこう言う。

「医師だけでなく、看護士、臨床心理士などがチームを作ってあたる必要がある。グループ療法、インターネット利用なども考えるべきだ」

   100万人はとてつもない数字だ。現代社会が生んだ病い。認知行動療法は突破口になりそうだ。にしても、この呼び名は何とかならないか。

*NHKクローズアップ現代(2011年2月7日放送「うつは『心』から治せるか 注目される認知行動療法」)