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東電「賠償金払いたくない」が透けて見える「請求書」の慇懃無礼

   原発事故の賠償金の受け付けが東京電力で始まり、対象となる避難区域の住民に今週(2011年9月)から請求用紙が届き始めている。しかし、この賠償金受付を巡り被災地に突き付けられた明と暗の現実があった。

同じ敷地で「対象の息子」と「外される親」

   まず「暗」から。目に見えない放射線汚染に、むりやり賠償対象の区域を線引きした矛盾が浮かび上がっている。ホットスポットと呼ばれ、年間被ばく量が20ミリシーベルトを超えると予想されるところを世帯別に線引きした「特定避難勧奨地点」が福島県伊達市に4か所ある。

   その1か所で、同じ敷地内の別棟に住む息子夫婦の家は指定されているのに、父母の家はこの避難勧奨地点に指定されていない。母親がこう訴えた。

「指定になれば補償をもらえるうえ、税金は無税、国保、医療費は無料。補償は一人当たり10万円で、7人家族なら月70万円が入る。その話になったら地域がバラバラになってしまった」

   放射線の子どもへの影響を恐れて自主避難し、二重生活を送っている人なども賠償の対象外だ。自主避難して半年で避難場所を5か所も変わった主婦もこう訴える。

「福島県民って、今までもっていたカードを捨てなければダメなんです。子どもの将来の健康とか、夫と一緒にいることとか、親とか友達とか。何らかのカードを切らなければならないんです」

60ページの書類に記入し領収書添付

   それに比べれば、賠償の対象になった人は少しは「明」なのだろうが、これにも問題があると取材したリポーターの所太郎は言う。東京都内で避難生活を送る夫婦は、東電から届いた賠償請求の用紙を見て驚いた。請求書類が60ページ、その書き方を説明するマニュアルが156ページもあった。

   夫は「カタログショッピングじゃないんだから、これを書き上げるなんてわれわれ素人でできるんでしょうか。高齢者の方は大変だ」と戸惑う。3月11日時点に遡って記憶を呼び戻し、馴染みのない漢字や熟語が並ぶ書類に書き込み、必要なレシートを探して添付して東電に提出する。しかも、今回の請求は3月11日から8月31日までの分。それ以降は3か月ごとに同じことを繰り返さなければならない。まことに煩雑だ。

   東電では賠償金額の確認作業を行い、合意に達すれば10月から支払いを始めるが、合意にいたらなければ被災者は原子力損害賠償紛争解決センターに持ち込んで和解調停してもらうか、それでも解決しなければ訴訟するしかない。

「書式通りじゃないと手間かかりますよ」

   所「(東電は)書式通りにやらないと手間と時間がかかりますよと言わんばかり。そう取られているむきもあります」

   請求用紙を見た東ちづる(女優)がこう憤慨した。

「全体的に丁寧に見えるが、こういうのって慇懃無礼と言うんだなあと。私が被災者なら(東電は)払う気があるのかなと思ってしまう。
どうしてもこういうものを作らなければならないなら、1軒1軒お訪ねし頭を下げてまずは謝罪。丁寧に説明して一緒に書くぐらいでないと気持ちは伝わらない」

   これではどちらが加害者か分からないお役所的発想。これも地域独占にどっぷり浸った傲慢さの表れか。