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役に立たない地震保険―水道・ガス管ズタズタでも補償ゼロ

   東日本大震災での地震保険の支払額は1兆2000億円を超え、過去最高となった。保険の加入者も阪神・淡路大震災から増え続け、昨年3月(2011年)で1270万件もあった。昨年3月の大震災では東北、北関東ばかりではなく、首都圏でもさまざまな被害が出た。ところが、地震保険を巡って、とくにマンションで奇妙なことが起きている。

マンションの査定対象は柱や梁など主要構造部だけ

   仙台のマンションに住む夫婦は家財を対象にした地震保険に入っていた。大震災で洗面台が壊れ修理に22万円もかかった。これに下りた保険金が15万円。「得した感じ」というが、実際の被害はバルコニーや廊下、外壁など共用部分の方がはるかに大きかった。高架水槽が破損して1か月も水道が使えなかったりして、損害は全体で6000万円と見積もられた。

   ところが、保険会社が査定して提示した保険金はたったの1750万円。管理組合は再度の査定を求めたが、廊下全体が歪んでいるにも関わらず査定は変わらなかった。地震保険の査定対象が建物の柱や梁など「主要構造部」に限られるからだった。日常生活に切実な水槽やエレベーター、バルコニー、外壁などは対象外なのだ。住民は「保険会社はコンクリートがむき出しのところしか見なかった。生活者の視点からの査定基準が必要ではないか」と不満だ。

   もっとひどい例が千葉・浦安市にあった。500世帯という大きなマンションだが、液状化現象で地盤が50センチも沈下して、建物がその分浮き上がったような状態になった。むろん地下の水道、 ガス管はずたずただ。修理の見積もりは4億円。しかしこのマンションに保険は出なかった。マンションは地中深く打ち込んだ杭に支えられていた。 周囲の地盤はめちゃくちゃになったが、杭に乗っていた建物の主要構造部には被害がなかったのである。このマンションでは年に120万円もの保険料を払っていた。住民はあらためて「地震保険て何なんだ?」と首を傾げる。こうした例は浦安市全体で80棟を超えるといわれる。

査定根拠示さぬ保険会社―腹の中は「値切れるだけ値切れ」

   住民の不満の理由のひとつが地震保険の査定区分だ。 区分は3つしかなく、全損(損害率50%以上)は100%、半損(同20~49%)は50%、一部損(3~19%)になると5%と極端に保険金が下がる。しかも、査定の詳しい根拠が示されない。契約者からはもっと細かく査定して、かつ根拠を明示せよとの声があがるのも無理はない。

   こんな例もあった。仙台のあるマンションは共用部分に大きな被害を受けて、修理の見積もりは1億円と出た。しかし、査定は「一部損」で490万円しか認めない。損害率は19%だった。1%増えれば「半損」だから保険金は10倍になる。住民は保険会社に情報の開示を求め、出てきた図面をもとに損傷箇所を探し回った。ようやく柱の一部に損傷を見つけて損害率20%を超え、保険金は4900万円になった。

   地震の補償に詳しい創価大学法科大学院の黒木松男・教授は、「戸建ちの家はわかりやすいが、マンションは見えにくい。また、地震保険の考え方が、火災保険のような補償ではなく、見舞金的な性格をもっている」という。とくに巨大地震の被害の大きさを考えると、保険会社はなるべく抑制しようという配慮が働くのだという。こうした不満の高まりに、保険会社のなかに制度の見直しに動くところが出てきた。とくに査定情報の開示だ。日本損害保険協会も国と合同で制度のあり方を検討することになった。

   まさかの時に頼れるからこそ保険であろう。もともと地震保険は最後は国が支援に回るという仕組みだ。国も本腰を入れて信頼を取り戻すいい機会にしてほしい。それにしても、気の毒な浦安の人たち、何とかならないものか。

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2012年2月23日放送「マンションを救えるか~見直し迫られる地震保険~」