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AIJで始まる連鎖倒産―損失補填で経営行き詰まり

   神奈川県の社員10人の印刷会社に先月末(2012年2月)、厚生年金基金から知らせが届いた。基金92億円のうち55億円を「AIJ投資顧問」に委託していたという。この会社の積み立ては5000万円。「従業員が老後のために少しづつためた金ですよ。理不尽だ。許せない」と社長はいう。

「おかしい」通報あっても動かなかった証券取引等監視委員会

   AIJが失った資金は2000億円といわれる。8年前の設立。年8%を越える高い運用実績を吹聴し、専門誌のアンケートで総合1位になったこと もある。浅川和彦社長は元大手証券会社のやり手営業マンで、客を喜ばせることに長けていたという。

   危うく難を逃れた年金基金もあった。仙台にある東北の運輸業者345社が加入する基金は7年前、AIJ に5億円を預けた。順調に利益が上がっていると聞いていたが、コンサルタントが契約解除を勧めた。高い利回りが続く理由が不審だったからだ。契約は解除され、基金には5億円プラス8800万円が返ってきた。

   「東証株価指数が下がっているのにAIJの実績はあがる一方。ありえない」と、このコンサルタントは証券取引等監視委員会に「違法行為の疑いあり」と通報した。委員会には計4件の通報があったが、今年1月まで調査に動かず、被害は広がった。

   総合型の厚生年金基金は、中小企業の従業員にも大企業並の企業年金をといういわば理想を追った制度だ。企業が集まって基金を運用する。国の厚生年金の資金も入れて高い運用益をはかる。いま全国に約600ある。好況の時はよったが、株価低迷のなかでどこも基金の目減りが続く。AIJはまさにそこに食い込んだのだった。巨額の損失を出しながら、契約解除には新たに引き込んだ基金を流用して好調を装った。いわば自転車操業だ。

   監視委はようやく投資運用会社の実態調査を始めたばかりだ。第2、第3のAIJがないのかどうか。また、年金基金の実態も厚労省が調査している。

倒産会社の負担金次々上乗せで督促3倍

   こうした動きのなかで、年金基金の構造的な問題も浮かび上がってきた。被害に遭わなかった基金でも厳しい。場合によっては企業経営を圧迫して、倒産に追い込まれるケースも出てきた。基金が立ち行かなくなって解散すると、目減り分の穴埋めは企業にかかってくる。さらに、国から預かって運用していた厚生年金の資金の返済もある。

   神戸市のタクシー会社(社員90人)は、6年前に基金を解散したときから赤字に転落した。基金には50社が加入していたが、穴埋めと厚生年金資金返済の負担が各社にかかってきた。この会社の負担金は1億5700万円だった。会社の利益の15年分である。

   それでも6年間、毎月190万円を返済し続けてきた。給与をカットし、新車切り替えを先延ばしにしているが、それも限界に近づいている。すでに廃業した会社もある。負担額ははじめは1億2000万円だったものが、先月の督促で3億4000万円になっていた。廃業した会社の分が残りの会社にかかってくるのだ。50社のうちすでに14社が倒産している。「つぶれた会社のためにこっちもつぶれる。それも年金のために」。年金のお陰で連鎖倒産が広がり始めているのだ。理不尽も極まる。

   ではなにか対策はあるか。連鎖倒産は防げないのか。「特効薬はない」と森戸英幸・上智大教授はいう。「今の年金運用のモデルが限界にきた。新しいモデルを作らないといけない」と話す。そんなもの間に合うわけがなかろう。それでは神戸のタクシー会社は1社も生き残れまい。

   株に依存したシステムがとうに破綻しているのに、 誰もシステムそのものに警鐘を鳴らさなかった。株が上がるのを祈って待つだけ。国家とはかくも頼りないものだったか。

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2012年3月15日放送「」「年金資金が消えていく ~AIJ巨額損失の衝撃~」