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家族が迫られる延命装置外す決断―専門学会「中止も選択肢」のガイドライン

   広島・福山市の中島基晴さん(44)が、病院で寝たきりの祖母・文江さん(93)に呼びかける。「おばあちゃん、わかるか」。もう2年前から答えはない。「胃ろう」をつけて7年になる。夫も息子もすでに亡くなった。孫の基晴さんは「声が届いていない。反応してくれない。魂が本当にここにあるのか、悲しい」という。

   延命治療には鼻や静脈からなどさまざまある。胃に直接栄養を流し込む「胃ろう」が負担が少なく最も効果が高い。この10年で急増し、いま全国で40万人といわれる。3年以上が3割、5年以上が1割、10年以上の延命もある。多くは患者の意志が確認できない。いったいどこまで続けるのか。医療現場も家族も、これと向き合わざる をえない状況に置かれている。

家族の3人に1人「医師に聞かれたら『延命治療やめる』」

   延命治療が7割を占める病院で、NHKが家族にアンケートをとった。「延命治療をどう思うか」という質問に、「わからない」「付けなければよかった」が約半数。「医師が止めるという選択肢を示したら?」には、3人に1人が「止める」と答えた。「止める」と答えた77歳の女性は、夫が脳梗塞で倒れて12年。6年間は自宅で介護したが、過労で自分が倒れて自宅介護をあきらめた。入院費のために、彼女は週に4日、朝7時から働いている。

   夫の症状は悪化し、手は曲がったまま意識はない。「胃ろう」が夫を苦しめているのではと思うようになった。病院の相談室で「夫のやめてくれという声が聞こえるような気もする。止めてやりたいと思ったりして、心が崩れちゃった」と涙を流した。夫はこの放送の10日前、容態が急変して亡くなった。病院はなお、「順調に延命しているのを家族の思いだけで止めるのは難しい。人権、人道上も問題だ」という。

   アンケートを担当したNHKの米原達生記者は、「延命が増えたのは介護の手間がかからないから。だが、最初に延命装置を付けるとき、どういう状態になるかの考慮が浅い」という。大方は回復の見込みがないとわかった時点で、罪悪感に苛まれるのだという。

意識ない本人の意思どう判断

   国立長寿医療研究センターは昨年10月(2011年)、終末ケア専門チームを作って、最善の医療とは何かをさぐっている。畠中千代子さん(74)は昨年11月に夫を亡くした。10月に肺炎で入院したとき、「胃ろう」を付けるかの判断を迫られた。夫は脳梗塞で倒れた7年前、「延命治療は辞退する」という文書にサインをしていた。しかし、千代子さんの決断で夫の命が決まる。悩んだ。専門チームは、夫の意志を確かめるためにペンをもたせた。不自由な手で「連れて帰ってくれ」と書いた。これで決まった。夫は自宅に戻り、自分で撮った花の写真に囲まれて亡くなった。千代子さんは、「写真を1枚1枚目で追っていました。穏やかな表情でした。これでよかったと思ってます」という。

   日本老年医学会は3月、「本人にとっての最善を考え、水分、栄養補給の差し控え、中止も選択肢に」とのガイドラインを出した。 「亡くなるまで」としてきた現場に投じた大きな一石だ。しかし、ことは簡単ではない。新田國夫医師は「止めることは即ち死ですから、本人がどんなに意志をもっていても、家族は『私が決めていいのか』と悩む。生存権も尊厳もある。最善の医療の判断は難しい」という。しかし、「最後は本人の意思を尊重したものであるべきだ」と言い切った。

   新田氏はまた、「看取りの医療が必要」ともいった。本人の意志がわからないとき、「だれが決めるか」は重い。少なくともこの負担を家族にかけてはいけない。元気なうちから意思を示し続けるしかあるまい。

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2012年5月17日放送「人生の最期 どう迎える?~岐路に立つ延命医療~」)