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難しいゲーテをいよいよ難しくした超難解映画!ヴェネチア映画祭では満場一致の金獅子賞

ファウスト>ロシア人のアレクサンドル・ソクーロフ監督は、ヒトラーの『モレク神』、レーニンの『牡牛座』、昭和天皇の『太陽』と3部作を発表してきた。その連作の最終章といわれるのがこの映画で、ゲーテの『ファウスト』をモチーフにしている。

   舞台は19世紀初頭のドイツである。地上学を研究するファウスト博士(ヨハネス・ツァイラー)は、学問のために巷で悪魔と噂される金貸しマウリツィウス(アントン・アダシンスキー)のもとを訪れる。そして、マウリツィウスに導かれるように町で純真な少女マルガレーテ(イゾルダ・ディシャウク)と出会う。一瞬で心を奪われた博士は、彼女を求め、自らの魂と引き換えにマウリツィウスと契約を結ぶ。

少女の愛を得たいと「悪魔」と契約するファウスト博士

(C) 2011 Proline-Film,Stiftung fur Film-und Medienforderung, St.Petersburg,Filmforderung, Russland Alle Rechte sind geschutzt www.cetera.co.jp/faust
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   『太陽』で天皇が見ている夢の中で、トビウオの群れが日本の大地を爆撃するという奇天烈なシーンを描いたり、『エルミタージュ幻想』で映画史上最長の長回しをやってのけたり、ソクーロフの奔放な演出は本作でも「爆発」している。 物語を大きく読み替え、「天才ゲーテの原作」という概念を吹き飛ばしてしまう。

   「悪魔」と「契約」というのが肝であるが、日本人には「契約」という哲学的概念はピンとこないだろう。映像ではストーリー展開を解かりやすくして、原作が持つ難解なテーマを紐解くような製作方法が一つの在り方であるのだが、ソクーロフは「直感でついてこい」と言わんばかりに、歪むカメラ、定まらない色彩世界を駆使して、見る側の目を錯乱させていく。

描写が迫真的で怖く息苦しさ。観客混乱させるのが監督の狙いか

   マルガレータに心を奪われたファウスト博士の自我の変化から物語は動いていくが、マルガレータは存在そのものが古典名画の美を連想させ説得力がある。マルガレータを自分のものにしたいと、悪魔ならぬ高利貸しと契約したファウスト博士の心理描写が最大の見所である。長く凝視した天使のような肖像にふと出現する悪魔の影――その映像描写がとにかく迫真的で、怖く息苦しさすら覚える。『太陽』のようなユーモラスな要素もないので、とにかく開放感がない。その開放感を観るものが求めようとすることが、ソクーロフの狙いなのかもしれない。

   ヴェネチア国際映画祭で満場一致の金獅子賞を獲得したが、とにかく超難解な作品なので、観るときはある種の覚悟が必要になる。気軽にポンと観るような映画ではない。観たら「何か」を永遠に変えてしまう――そんな映画である。

川端龍介

おススメ度☆☆☆☆