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もう中国から撤退したい!逃げたくても逃げられない進出企業がんじがらめ

   尖閣諸島の国有化を契機に、中国内で暴力、暴動的なデモが起きるなどして、悪化する一方の日中関係が懸念されているが、それ以前から、中国の安い労働力を当て込んで進出した日系企業の中には、別の困った状況に陥ってるケースが少なくない。

   最低賃金の大幅引き上げなどで人件費が高騰し、労働者の権利意識の高まりでストライキなども起きる。中国ビジネスの旨味が減ってきたのに加えて、2008年のリーマン・ショック以降の景気低迷から抜け出せない。経営が悪化し、これはさっさと店をたたんで帰りたいと思っても、そうはいかないというのだ。

法律で退職金の全額支給義務づけ。地方政府に廃業許可申請

   中国では従業員に経済補償金を支払わなければいけない。日本で言えば退職金のようなものだが、退職金が労使の取り決めに過ぎないのに対して、この保証金は中国の法律で決まっているそうだ。また、地方政府の許可も必要で、会社の帳簿の調査が終わるまで撤退を認めないため、長い時間がかかるという。

   日系企業の中国進出を助けるコンサルティング会社は、今や撤退の相談にも乗っているといい、「会社のいまの経済状況では支払いができないので、そのまま逃げ出したい」などと相談をしてくる会社もあると話す。

   電機部品を製造していたある会社も夜逃げ同然に撤退したという。「クローズアップ現代」が社長に話を聞いたところでは、経営難で工場を閉めることにしたが、従業員は退職金が全額支払われないことに反発し、社長をホテルで20日間も軟禁状態にした。社長は隙を見て逃げ出したが、この長期不在が響いて日本の本社も潰れたそうだ。

経営厳しくなってから慌てる現地法人の場当たり体質

   もっとも、これが特殊で異質でヘンな中国に日系企業が「翻弄」された例と言えるのかは、よくわからない。約束した支払いもできずに夜逃げしそうな会社の社長が、従業員・債権者の怒りを買うのは中国に限った話ではない。経営者が取り囲まれ、罵声を浴びせられ、逃げないように軟禁同然に監視される。これは乱暴で、法律に触れることかもしれないが、日本でも起きる事態である。

   アジア各国に進出している日系企業の経営管理が専門の白木三秀・早稲田大学大学院教授は、こうした企業は「非常に厳しい状況になってから対応を考えている」と指摘する。「前もって中期的なシナリオ、ロードマップを作り、経営の客観的なデータに基づいて、撤退なども含めてどうすべきかを用意しておくこと」が必要なんだそうだ。

ボンド柳生

NHKクローズアップ現代(2012年10月2日放送「撤退ができない…中国進出・日系企業の苦悩」)