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中国・習近平でも変わらない「不平等・格差拡大」年間20万件の不満デモ

   8日(2012年11月)から始まった中国の共産党大会では、最高指導部が大幅に交代し、国家主席も胡錦涛から習近平に代わる。しかし、中国はいま急速な経済発展がもたらしたひずみが国民の不満となって吹き出している。新体制はこれを克服できるのか。

ネットで人民も知ってしまった「共産党幹部たちの不正、特権」

   上海近郊の南通市で7月、1万人が市庁舎を囲んだ。工場排水を海に流す施設の建設に反対するデモだった。デモは警備網を突き破って市庁舎に入り、市幹部を引きずり出した。幹部は「合意が得られるまで工事を中止する」と約束させられた。

   地方政府への不満のデモは年間20万件にもなる。北京で紛争解決を手がけている民間団体代表の周鴻陵さんは、「依頼は全国から来る。紛争解決を民間に依頼するなぞ、以前は考えられなかった」という。

   上海から400キロの村で大規模開発の立ち退きをめぐって、住民との対立が4年も続いている。去年5月、立ち退き家屋の火災で1人が死んだ。住民は立ち退きを拒否して、開発はストップしたままだ。政府幹部は周さんに「どうしたらいいか。もう力では抑えきれない」と話しているという。周さんは住民の声も聞いた。「強引に畑を奪われ、保証金も満足にない」「死んで抗議しようかと思う」。周さんが主張を政府に伝えると約束すると、1人の男性が「お願いします」と床にひれふして拝んだ。

   両者の話し合いで周さんは「冷静に」と伝えていたが、たちまち言い合いになってしまった。結局、弁護士を入れて土地の査定をすることになった。「地方政府が自ら変わらないといけない。そういう時代になった」と周さん。

   現代中国史が専門の国分良成・防衛大学校長は、「閉鎖社会で機会が不平等になっていて、学校でも就職でも医者にかかるにも、一部の権力者に機会が集中しているんです。ネットなどでそれが普通の人にもわかってきた」という。

うっぷんのはけ口にされる日本。習体制で反日政策・デモ激化

   胡錦涛は「調和のとれた社会」を標榜した。江沢民時代の成長一辺倒で広がった格差を正すはずだったが、この10年で格差はさらに広がってし まった。国分氏は「巨大な党に問題がある」という。党員は8200万人。かつては労働者と農民が大部分だったが、党幹部の天下りでいまは1925万人 (23・3%)が企業人だ。彼らは既得権益を手放そうとしない。資産を増やし税金も払わなかったり…。「政治と経済が癒着しているから汚職が生まれ、みなそれを知っている。成長が鈍化すると不満になる」(国分氏)

   9月の反日デモでは毛沢東の肖像をかかげた人が目立った。毛の死後、改革・開放政策で中国は飛躍したが、一方で貧富の格差は広がった。 貧しい人たちの間で毛時代への共感が広がっているのだ。

   これを大々的に推進したのが、この春まで重慶のトップだった薄煕来だ。当時の革命歌を奨励し、「共産主義の理想を思い出そう」とぶった。ある意味で中央への挑戦だったが、個人スキャンダルで失脚し党籍も剥奪された。しかし、低所得者に手厚かった施策で、薄の人気はなお高い。北京航空航天大学の韓徳強・副教授は「ひずみを正すには毛の思想が必要だ。平等を実現し、貧しい人の不満を解消しない限り、共産党に未来はない」とまで言い切る。韓氏のサイトは政府によって閉鎖されてしまった。

   国分氏は懐疑的だ。「昔の社会主義に戻れるのか。成長できたのは改革・開放のお陰で、それで世界に出てきた。逆行はできまい」

   では、習近平なら乗り切れるのか。国分氏は「テレビ映像を見てびっくりした。胡錦涛氏の隣に江沢民氏がいた。中国の人もびっくりしたのではないか。体制は変えられないということです」という。つまりは内政の不満を外へぶつけてくるということか。日本は格好の標的だ。この日も、尖閣諸島の接続水域では中国の公船が何隻も白波を蹴立てていた。まったく迷惑な話である。

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2012年11月08日放送「最高指導部交代 中国は変わるのか」)