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懐かしの町並みが壊れていく!住み手途絶え、修理・維持費、相続税の重い負担

   大阪・淀川区の古民家「渡辺邸」が先月(2012年10月)、あっけなく解体された。高い土塀に囲まれた敷地800坪に茅葺きの大きな母屋、6つの蔵と格式のある長屋は築400年で、江戸時代初期の貴重な建物だった。所有者の渡辺嘉子さんが亡くなって1年半。相続したのが遠縁だったため、相続税が1億円以上になり、更地にして土地を売らざるを得なかったのだ。文化財保護が現実に追いつかない典型例である。

   大阪府は昭和44年、指定文化財条例で渡辺邸を指定候補にしたが、改修には許可が必要で、一般公開に務めなければならないなどの規制があったため、渡辺さんは指定を断り、1人で借金をしながら、庭の手入れ、家屋の改修をしてきた。大阪府教委は「条例の指定があれば保存に関しては違った結果もありえた」と残念がるが、「規制の限界を痛感した」という。

重要伝統的建造物群保存地域の一人暮らし女性「私が最後」

   水郷観光で知られる千葉・香取市佐原は、水路に沿って並ぶ古い町並みが売りだ。県指定文化財の8軒と90軒以上の古民家と合わせて、国の重要伝統的建造物群保存地域に指定されている。室内の改修は自由なので、住みながら保存ができる。ところが、東日本大震災で約半数の45軒が倒壊してしまった。いまも多くが雨よけのシートに覆われたままだ。条例の修理費用には上限があるため、自己負担に耐えられないのだ。子どもがみな県外に出て1人暮らしの女性は、「私が最後」という。住み手がいなくなる事態を条例も想定していなかった。

   町並み保存のNPO活動をしている佐藤健太郎さんは、「直しても仕方がないという意識の広がりが心配だ」という。西村幸夫・東大教授は「文化財保護の法制が1950年代で、いいものに限定して守ろうと規制もきびしい。生活を守ることと連動していない」という。もうひとつの障害が相続税で、払うためには売らざるを得ないのだという。

   国谷裕子「ヨーロッパではよく保存されていますよね」

   西村「開発自体に厳しい規制がかかっています。新しいものでも古いものとマッチさせるとか、価値あるものは壊さないとか。景観は公共のもので、古いものは地域の価値を高めるという意識ですね」

   保存には金がかかる。評判になった東京駅の復元も金があればこそだ。かくて京都や金沢、萩、浅草など、各地で古い建築物が続々と姿を消している。

NPOで東京・谷中の「カヤバ珈琲」復活!若者の人気スポット

   そんな中、東京・台東区谷中で面白い試みがあった。大正5年創業の喫茶店「カヤバ珈琲」は木造2階建て。関東大震災も東京大空襲も生き抜き、地域の憩いの場になっている。ここも6年前、経営者の女性が亡くなり、相続者に継続の気がなかったため、解体の危機に直面した。町内会長の浅尾空人さんが区に買い取りを働きかけたがダメだった。そこで、見つけたのが谷中の建物の保存活動をするNPOだった。

   NPOが所有者に聞くと、相続税の支払いはなかったが、固定資産税、修理・維持費が負担になるとわかる。NPOは管理を請け負い、営業する人を捜して貸し出し、賃貸料で費用を賄うことを考えた。

   ただ、普通の賃貸契約は借り手の意向が優先する。地元の不動産業者が「定期借家制度」を設定した。これだと所有者の意向で更新が決められる。費用は一切借りる側が負担する。地元のギャラリーが資金を出し、学生がボランティアで壁塗りをしたりと、地域ぐるみの努力で生まれ変わった。レトロな雰囲気がいま谷中を訪れる若者に人気だ。

   西村教授「谷中の例はいい。NPOだと行政と違って創意工夫が生きる。町並み保存のモデルになります」

   思えば、古くて新しい問題だ。その昔、奈良や飛鳥で町並み保存で不便を強いられると住民がぼやいていたのを思い出す。法律はあれから変わっていなかった。でも、知恵を絞る人たちがいるのが心強い。

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2012年11月29日放送「懐かしの町並みを守るには~失われる伝統的建築物~」