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「平成の徳政令」かえって傷大きくした中小企業―業績立て直せず倒産一直線

   「平成の徳政令」と呼ばれた金融円滑法は、資金繰りに苦しむ中小企業のための緊急の救済措置として2009年12月に施行され、全国30~40万社もの借金返済を猶予してきた。しかし、実際に業績が改善したケースは少なく、結局、倒産してしまう会社が多かった。なぜそんなことが起こったか。

「金融円滑法」で毎月の返済額減ったが、金融機関は「再建計画書」受け取り拒否

   キャスターの内多勝康は「株価は1万円台となり、株式市場には活気が戻りつつあります。しかし、その一方で金融円滑法により中小企業に融資していた金融機関の間からは、死活問題になりかねないという声が上がっています。返済を猶予してもらった中小企業の多くで業績が改善せず、結局倒産してしまうケースが増えています」と報告する。

   その具体例として、「クローズアップ現代」がある中小企業を取材した。事務用ロッカーや机、事務用品が運び出されていく。会社が倒産し差し押さえられたのだ。社長の戸塚久雄氏は「5年前に融資を受け、毎月500万円ずつ返済することになっていました。それを金融円滑法で140万円まで減額してもらったが、経営再建計画書の提出を求められた」と経緯を語った。戸塚社長が提出したのは、不動産売却で債務の圧縮を柱とした再建計画書だった。しかし、その直後に不動産価格が下落し、計画書は不十分とされ戻された。戸塚社長は「何度お願いしても計画書に目を通してもらえなかった。最後は計画書を置いて帰ってきた」と話す。

   中小企業の企業買収を仲介する日本M&Aセンターの担当者は、「最近はもう少し早く相談してくれていればというケースが目立ちます。ギリギリになってから相談されても間に合わない」と語り、食品メーカーの買収を巡るケースを上げた。買い手側は原材料費の割合を30%以内としていたが、経営内容を見て驚いた。商品によっては50%近いものがいくつもあったからだ。結局、買収話は持ち越しとなった。

地域の金融機関に溜まる不良債権

   亀山拓也・NHK社会部記者は「ある調査機関が全国40万社の中小企業を対象に調べたところ、経営改善が進んでいないという割合が15%、なかなか進められないという割合が40%以上となりました」という。ゲストの山口義行・立教大学教授は「リーマンショックという外部からの衝撃があり、出血を止めるという意味では、金融円滑法はそれなりの効果がありました。しかし、中小企業は(立て直しのための)何の準備もしておらず、最後は再び金融機関に頼らざるを得なかったのです」と話した。

   都内でも有数の信用金庫である墨田区の東京信用金庫の渋谷哲一理事長は、「昨年(2012年)だけで不良債権が140億円も増加しました。このままでは信金の死活問題になるので、不良債権かどうか、その可能性はあるかを色分けして管理しています」と、地域の金融機関の不良債権が増大するリスクを抱えている現状を伝えた。

   内多「この現状を変えていくにはどうしたらいいんでしょうか」

   山口教授「まず、地域の金融機関でプロを育てていくシステムが必要です。地域の金融機関の取引先は業種も違えば企業規模も違う。そうした事情に精通したプロが求められています。

   経済成長が進めば中小企業にも活気が戻ると考えられていますが、中小企業対策と経済成長は別問題。別けて考えるべきです。地域の金融機関が自分たちだけではなく、時には外との連携も考えるべきです」

   アベノミクスで騒いでいるのは大手の輸出産業や建設業、鉄鋼業だろう。中小企業は置いてきぼりになっていないか。

ナオジン

NHKクローズアップ現代(2013年1月28日放送「『返済猶予』は何をもたらしたのか~検証・金融円滑化法~」)