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アベノミクス相変わらず「花の建設、日陰の管理」老朽インフラ補修・維持後回し

   9人の犠牲者を出した中央自動車道・笹子トンネルの天井板崩落事故は、長年インフラの維持管理を軽視してきたことに対する重大な警鐘だった。道路公団OBは「花の建設、日陰の管理」という。日本が社会資本の整備に集中したのは、50年 前の東京オリンピックの時だ。それよりはるかに新しい、わずか35年の笹子トンネルで大規模崩落が起きた。この工事にたずさわった道路公団OBは「メンテナンスという考えがなかった」という。

   当時は安くたくさん作るのが最優先だった。コストの点から、換気用の並行トンネル建設は問題外。 本体を大きく掘って、天井板を吊り下げた。ために天井のボルトまでの高さが5メートルを超え点検がしにくい。事故後の点検で、ボルトのゆるみなど不具合は1200か所もみつかった。足場を組む点検は10年以上もやっていなかった。中日本高速道路の保有する自動車専用道路は総延長は1900キロあるが、建設から30年以上が6割を占める。維持管理費はここ数年ずっと60億円前後で、総予算の数%にすぎない。

造りっぱなしの橋やトンネル「図面も残っていない!」

   笹子事故のあと、自治体もインフラの管理・補修に取り組み始めたが、ここで別の問題が起こった。山梨県が昭和50年代に作られた橋の補修をしようとしたところ、橋の概念図が1枚あるだけだった。地下・内部構造など詳細がわからない。新しい橋なら図面は200枚にもなる。県職員は「昭和時代のものは図面が残っていない。捨てたのか、維持管理まで考えてなかったのか」という。まずは機器による実測で図面の復元から始めないといけない。これに3か月、1500万円もかかるが、将来の管理のために欠かせない図面だ。

   NHKが都道府県と政令都市に行ったアンケートでは、87%の自治体で「図面のない橋やトンネル」があった。 取材した記者は予算の使い道の問題だという。管理・補修より新規の建設に多く使われる構造を変えない限り、事故はなくならないだろうと指摘する。

   維持・管理の費用はいったん手を付けると膨らむ。長野・佐久市内の橋の亀裂に樹脂を注入する工事で、補修箇所は1500か所と見ていたが、実際には5000か所になった。これで4500万円の費用が700万円増えた。同様に修理が必要な橋は1000か所を超える。15年間に318億円という県の試算はすでに危うい。

   一方で、アベノミクスで国土交通省への新規の道路建設の陳情はひきも切らない。限られた財源をどちらに振り向けるのか。「維持管理にどれだけ向けられるか」と長野県の道路担当者はいう。

さいたま市「もう道路も公共施設も造らない」ハコモノ三原則・インフラ三原則

   発想を大きく変えた自治体もある。人口120万 人の埼玉県さいたま市は、いまあるインフラ、公共施設をそのまま維持した場合の管理コストを試算した。すると、今後40年間は毎年155億円の財源不足と出た。そこで打ち出したのが、「ハコモノ三原則」だ。公共施設を増やさず、更新時に複合施設化し、総床面積も縮減(40年間で15%)する。空いた土地の売却益でインフラの維持ができる。要するに、「ハコモノを我慢する」のだが、別に「インフラ三原則」もあって、道路計画も5分の1の取りやめを検討中だ。住民も加わった議論が始まっている。

   東洋大の根本祐二教授は「1960年代、70年代のものがいま集中的に老朽化しています。今後、加速度的に事故が起こると認識すべきだろう」という。教授の試算では、いまあるインフラの現状更新だけで、毎年8兆1000億円を50年間続けないといけないという。

   根本教授「維持管理が優先で新規は後回しにしないといけない。理由は2つ。まず命に関わるものだから。もうひとつは、新規の投資は3倍の維持費が要る。これは子どもたちの負担になるから」

   新規事業ではすでに孫の財布にまで手を突っ込んで何十年になる。このうえ維持費まで子どもの負担にしていいわけはなかろう。根本教授はいいことを言った。「インフラが減ったから不幸になるなんてことはない」。そう、ちょっと不便なだけだ。

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2013年1月31日放送「問われる『維持管理』~笹子トンネル事故の波紋~」)