ある晩、友人から思ってもいなかった一言が飛び出した。「みんなと会ってるとほっとする。したたかな女がここにはいないんだもの」
付き合いは10年以上、女同士で気を使うこともなく、ある程度の私生活はお互い把握している。上手くいかない仕事の話、煮え切らない関係にいる彼氏のこと。女はいつだって大なり小なり悩みを抱え、それを誰かに話したくてたまらない。この時もそんな夜だった。
「したたかな女って?」
したたかさは女の処世術だ。ビジネスにおいても、恋愛においても成功するタイプで、計算高く抜け目なくて、女性受けはよくないけれど男受けはいい。男を手玉にとって、ちゃっかり金も名誉もヒョイヒョイと欲しいもの手に入れていく。ウカウカしていると、あっという間に周りのものは彼女のものになってしまう。友人の職場にはそういう女性がウジャウジャといるらしく、警戒心ばかり強くなってしまったと嘆いていた。
そんな話を聞くと、同級生で集まる我らはしたたかな女とは程遠い。だから独身が多いし、ずっと友情が続いているのかもしれない。「だよね~、ほんと計算とかできないしさ」とガハハと笑って一同、焼き鳥をレモンサワーで流しこんだ。
30代も半ばにさしかかっても、したたかさを得ることができなかったのは不幸なのか。なんだか気になってきた。調べてみると「したたか」とは「強か」と書き、本来は非常に手ごわく、屈強であり、とても扱いにくい相手という意味を持つことを知った。
とはいっても、この荒波の中をなんとか生き残っていくには、本来の「強かさ」を持ち合わせていたほうが得なこともあるかもしれな~いなんて思うと、したたかな女が気になってきた。そこで自分に欠落している「戦略的思考」を身につけようと、ビジネススクールなるものの会に行ってみた。
謳い文句は「お金をもっともっと儲けたい、成功したい人のための会」だ。なんともえげつないネーミング。でも、強かさも身に付けられそうだ。高い会費を払い、もしかしたらボーイハントになるかもと下心もあってドキドキしながら行ってみた。
すると、そこは女の花園だった。げっ、女性限定の会と間違えてしまったかと思ったほどである。なんだ、ガッカリ。早々に自分にはやっぱりムリだとあっさり諦めたので、彼女たちの観察をいろいろとしてみることにした。参加者はだいたい20代後半から40代前半の女性で、頭の先から指先まで気を抜かずにキレイに気飾り、外見も内面も自分磨きに励んでいるようなタイプばかりだ。まるで「肉食系女子」と張り紙して歩いているような感じ。でも、喋ると甘ったるい感じで、リアクションもおおげさでイラっとくる。もしかして、彼女たちこそ「強かな女」予備軍なのか。
可愛いフリして上昇志向バリバリのエンジンふかしまくりの女。そんな参加者の1人に話を聞いてみると、「え~、なんか楽しそうだなぁって思って。それに女子力もアップできるかもだしい」と大きなオメメをパチクリさせながら答えてくれた。出た!こういうのが強かな女なのか。すんなりかわされた私は、もっとホントはゲスいこと考えているんじゃないの、そうでなきゃこんな会にこないだろと心の中で思いっきり叫びたくなったけれど、「そうなんだ~、なんかわかりますぅ~」とひきつった笑顔で答えておいた。
強かな女にはなれなくてもイイや。同級生の友人が「したたかな女がいないからホっとする」と言っていた意味がよ~く分かった気がした。
モジョっこ