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世界で読まれる「はだしのゲン」こんな暗いマンガ真っ平!連載スタート直後は散々だった読者反応

   プロ野球選手の新井貴浩に歌手の「ゆず」。冒頭のツカミに有名人を持ってくるのは最近の「クローズアップ現代」がよく使う手法である。さてこの2組に共通するのは? 正解はマンガ「はだしのゲン」の愛読者であることだそうだ。

   「世界をかける『はだしのゲン』」という今回の放送、VTRの大半は「ゲン制作秘話」といったものであった。

作者・中沢啓治さん広島で被爆「マンガを武器にすべてを子供たちに知らせたい」

   作者の中沢啓治さんは6歳のときに広島で米軍の原爆投下によって被爆した。爆心地から1.2キロの地点で、「もしコンクリートの壁にもたれていなければ黒焦げになって死んでいた」と後に語ったという。原爆の被害、惨状をじかに体験し、家族を失った経験をもとに「はだしのゲン」というマンガを描いた。

   啓治さんは去年の暮れに73歳で亡くなったが、妻のミサヨさんは連載開始時の夫の意気込みをこう語る。「原爆について知ったこと、思ったことを全部マンガという武器を使って子供たちに知らせる。『はだしのゲン』に託してやるんだと」

   「はだしのゲン」は昭和48年にマンガ雑誌「少年ジャンプ」で連載がスタートした。連載中は悪夢にうなされながら、強い使命感で描き続けたという。しかし、ゲンは人気面で苦戦を強いられた。読者の人気投票を参考に掲載順が決まるというジャンプで、掲載開始から2か月後には最後尾近くまで下がってしまったそうだ。

世界20か国でボランティアが翻訳出版

   当時の担当編集者だった山路則隆さんによれば、「こんな暗い作品はもう真っ平だ」といった反応は当然のごとくあり、読者の厳しい反応も伝えていた。「でもリアルに描きたい。本当のことを描きたい。その相克はずっとあったと思う」

   もっとも、家族を失ったゲンが孤独に苦しむといった展開には、妻でさえも「重くて悲しいだけでつまらない」と感じ、当の作者もどう面白くしたらいいか頭を悩ませていたという。その後、「ゲン」は孤児同士で支え合い、被爆への偏見や嫌がらせにも負けずに成長していく物語となった。

   雑誌連載開始から40年近く経ったいま、「ゲン」は世界各国20か国で出版され、その多くがボランティアによって翻訳されたものだという。欧米やアジア、最近はイランでも出版されたそうだ。

NHKクローズアップ現代(2013年7月30日放送「世界をかける『はだしのゲン』」)