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「がんの親玉」見つけた!がん幹細胞叩けば根治も夢じゃない時代

   がん治療が大きく変わろうとしている。これまで未知だったがんの親玉ともいうべき細胞が発見されたのだ。研究者は「本物というか、倒すべき相手が見えてきた」という。

   大阪大学の森正樹教授(消化器外科)は、手術した大腸がんと肝臓がんの患者1000人余から細胞の提供を受けて詳しく調べた。細胞検査技術の進歩で、細胞を一つひとつ分離することが可能になり、そこで未知の細胞をみつけた。マウスの実験では、がん細胞だけを植え付けても細胞は増えず、未知の細胞を植え付けたマウスには巨大ながんができた。「がん幹細胞」の発見だった。

   がん発生のメカニズムも見えてきた。幹細胞がつくったがん細胞は増えるが、やがて止まる。しかし、幹細胞は次々と新たながん細胞をつくり続け、全体でがんが巨大化する。がん幹細胞は環境の変化にも強く、体内を移動して転移する。

   がん幹細胞は抗がん剤にも生き残る。抗がん剤は、がん細胞が分裂するときにDNAがほどけ不安定になったところをたたく。がん細胞は分裂が早いから効果があがるが、がん幹細胞は分裂の頻度が低く効果があがらないこともわかってきた。

   森教授は「これまでは本質が見えていないため、むやみに攻撃(治療)していた。ターゲットがようやく見えてきた。幹細胞を克服できれば、階段を5段くらい一挙に上がれます」という。

抗がん剤も数撃ちゃ当たるから元から絶つ狙い撃ち作戦へ

   これまで、がんは正常な細胞の遺伝子に異常が生じてがん化すると考えられていた。手術、抗がん剤、放射線治療で5年生存率は向上してはいるが、再発と転移には打つ手がなかった。がん幹細胞が元凶ということならば展望はがらり変わる。

   がん幹細胞の特徴は、(1)がん細胞を作る(2)分裂が遅い(3)抗がん剤が効き難い(4)いつ活動をはじめるかがわからない(予測が難しい)だ。国立がん研究センターの中釜斉所長は「従来の治療は増殖の高いものを狙っていた。本丸ががん幹細胞だとわかれば、その特徴的な性格を攻撃できます。ただ、どこにいるか、いつ動くかがわからない」という。

   すでにいくつかの試みが始まっていた。九州大学の中山敬一教授は細胞分裂の仕組みの研究者だ。がん幹細胞では分裂を抑制する「Fbxw7」という遺伝子が活発に働いていた。この働きを弱めれば(分裂のスピードをあげれば)、抗がん剤が効くのではないかと考えた。白血病のマウスの実験で、抗がん剤のみのマウスはほぼ100%再発したが、幹細胞の分裂促進剤を投与したマウスの再発率は20%だった。中山教授は「幹細胞を殺すので、移転も再発も防げる」という。

リウマチ治療薬に思わぬ効果…本丸・がん幹細胞を兵糧攻め

   思わぬ薬の効果に期待しているのは国立がん研究センター東病院だ。現在の治療では効果が期待できない胃がん患者への臨床研究で、リウマチの治療薬を投与している。慶応義塾大学の佐谷秀行教授は、がん幹細胞の表面にある栄養を取り込む特殊なポンプにふたをすることをねらう。海外の論文からリウマチの薬にその効果があることがわかり、マウスに投与したところ、4週間後にほとんど消えていた。「想像以上の抑制効果があった」と佐谷教授はいう。

   臨床研究はすでに5か月になる。がん幹細胞の減少は認められるが、なお研究は続行中だ。中釜所長は「5年生存率はいま6割ですが、早期発見なら8割、9割です。がん幹細胞の研究で早期発見や治療が難しいすい臓がん、肺がんでも、8割にするのは夢ではないでしょう」という。

   友人の70代の医師が言っていたのを思い出す。「65歳以上のことなんか教科書に出ていなかった。死んで当たり前だったのだ」と。その年代が立派に生きていれば、当然がんも増える。いま、日本人の2人に1人だという。がん治療の進歩に年寄りも寄与しているといえなくもない。

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2013年9月19日放送「がん『根治』の時代は来るか~『がん幹細胞』研究最前線~」)