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「800年に1度」だった伊豆大島土石流―積もり積もった火山灰が一気に崩落

   台風26号が伊豆大島に大惨事をもたらした。三原山の山腹から土石流は2つの集落を押しつぶし、18日朝(2013年10月)現在で死者22人、安否不明27人の犠牲を出した。異常な雨量だった。24時間で824ミリは10月の平均降雨量の2倍以上。隣接する関東沿岸部の雨量と比べても飛び抜けている。なぜ大島だけが大きな被害を受けたのか。

秋台風特有の二重雨雲―6時間550ミリは日本の観測史上初めて

   大島が暴風域に入った15日夕、台風はまだ南西1000キロの彼方だった。最接近は翌朝とみられていた。気象庁は午後5時半に大雨警報、6時に土砂災害警戒情報を大島町に出した。風雨は強かったが町は動かなかった。町民も「いつもの台風」と思っていたという。

   しかし、雨脚は急に強まり、翌午前1時には降り始めから400ミリに達した。気象庁は16日2時半に記録的短時間大雨情報を出したが、暗夜の避難はかえって危険という判断で、町は避難指示を出さなかった。そのとき土砂崩れはすでに始まっていた。

   元町神達地区の多くの住民が「聞いたことのない音と振動」を感じていた。そしていきなり水が来たという。水が運んだ立木が家々を破壊し、多くの人たちが寝ている間に家ごと流された。建設作業員のグループが泊まっていた神達のホテルの1階では、午前2時過ぎに押し入れからいきなり水が吹き出した。外へ出ようとしたがドアが水圧で開かない。窓を蹴破って雨どいや室外機を伝って屋根から2階へ逃げた。

   午前3時半には土石流は役場のある元町3丁目にまで達していた。この頃の降雨量は1時間100ミリを超えていた。午前0時から6時間の549.5ミリは日本の観測史上初めてである。台風の雨域は台風とともに移動するものだが、なぜか大島に長く留まった。

   この雨雲をシミュレーションした名古屋大の坪木和久教授は「寒気の影響だ」という。北からの寒気に台風の暖かい空気が大島でぶつかり、上昇して雨雲になった。夏の台風と違って、雲がもうひとつ上にできて二重になり、雨量が増えたのだという。NHK社会部の菅井賢治記者は前線ができて動かな かった可能性をいった。

溶岩層の上にたっぷり水含んだ火山灰層―スピード早く破壊力2倍

   被害を大きくしたもうひとつは火山灰だ。大島は島全体が溶岩で、その上に厚く火山灰が積もっている。現地調査した東京農工大の石川芳治教授は土石流の跡に露出した堅い溶岩を叩いてみせた。700年から800年前の噴火で、いまの元町一帯に流れた溶岩流だ。その後の噴火で二重三重に火山灰が積もり、その上に木が生えていた。普通の雨だと火山灰は水はけがよく、水は下層に落ちるが、今回の雨では下層から上層まで水がいっぱいになり、重みで一気に崩れたのだと教授はいう。

   火山灰の土石流は重量がかかって流れも速くなる。森林総合研究所の実験では、火山灰を含まないものより到達距離は3割延び、破壊力は2倍になった。今回はこれに立木を巻き込んで、さらに強大な破壊力となったと見られる。

   菅井記者は「川の増水と違って土石流は予測がむずかしい」という。町が避難勧告を出さなかったことについても、雨のピークが深夜になったことで必ずしも誤りとはいえないという。ただ、台風が「10年に1度」というクラスだったことは前日からわかっていた。早い時間に「警戒情報」も出ていた。町と気象庁は電話で連絡もとりあっていた。「早い時間に何らかの対応はできたのではないか」という。

   町も住民も台風には慣れている。自分たちが危ない地層の上に住んでいるという意識もなかった。しかし、雨は「800年の堆積」を一気に洗い流すものだった。「まさか」という思いだろう。東日本大震災を思い出す。三陸の人たちは地震にも津波警報にも慣れていた。「1000年に1度」があるなんて思いもしなかった。「まさか」はいつか来る。が、いつなのかはわからない。

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2013年10月17日放送「『記録的豪雨』が島を襲った~緊急報告・台風26号~」)