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中国・新興国に狙われる日本の重要美術品!有名寺の仏像1体数億円の闇ルート

   ニューヨークのオークションに2008年、運慶の大日如来坐像が出品された。落札額13億円は日本の美術品史上最高額だったが、落札者が日本の宗教法人だったので国外流出は免れた。像はその後、国の重要文化財に指定された。危ないところだった。

   国指定の国宝、重文は全国に約1万点ある。文化財保護法は所有者に適切な管理と売買には届け出を義務づけ、海外への流出を防ぐことが明記されている。しかし、近年しきりと所在不明がいわれる。NHKは独自に調査を行った。むろん全部は無理だ。都道府県への問い合わせだったが、結果は衝撃だった。わかっただけで18府県で国宝1点を含む76点が所在不明になっていた。正規の手続きを経ない売買や盗難(27点)だった。闇の世界が貧しい寺を狙っているのだ。

貧しい寺狙ってブローカー売却持ちかけ

   滋賀・甲賀市の大岡寺は1300年の歴史を持つ由緒ある寺だ。ここでは2体の仏像が不明になっている。国の重文である木造千手観音立像(鎌倉時代)と木造阿弥陀如来立像(平安時代)である。住職の市川壽玄さん(83)と妻順子さんによると、12年前の本堂改装のときに信徒の1人が「私が預かります」と車に乗せていった。その後、信徒とは音信不通になってそのままになっている。

   NHKが追跡して大阪の美術商を突き止めた。美術商は「重文は付加価値が高い。国宝だと2億円とか、欲しい人はいる」と話す。仏像は京都から大阪、さらに関東に流れたと聞いたという。

   先頃、大岡寺をブローカーが訪ねてきて「買い戻さないか」と写真を見せた。本物だった。2体とも東京にあるという。男は「見るには手付金がいる。100万円でも50万円でもええねん」といった。住職夫妻は上京した。住職は「確認だけでもしたい。信徒さんに申しわけない」と話すが、男は「私にいわれても困る。ビジネスだ。買い戻しには億単位だ」とうそぶく。結局、確認もできなかった。NHKの取材に男は「仲介してるだけだ」と語った。

   文化財保護法では、所有権の移転には文化庁へ売却申請と新たな所有者の所有権変更届を義務づけている。大岡寺の2体は12年前、所有権の変更届が出され、文化庁は所在を確認したが、売却申請がないため受理しなかった。強制差し押さえの権限はない。このケースは窃盗ではないのか。

   ある住職は20人以上から仏像を売ってくれといわれた。1億円という金額も出たが断った。住職は「今では檀信徒から募金は不可能。苦しい寺では宝物売ろうかとなるのではないか」という。

後手に回る「文化財保護法」文科省ようやく実態把握指示

   いまや海外流出も懸念される事態となっている。中国人投資家の影だ。中国では不動産ブームに代わって、美術品が新たな投資対象になっている。あるブローカーは「中国人の金持ちが重文がほしい。いくらでもいいから調達してくれという。1体3億円前後。いいものなら青天井と言ってくる」と明かした。山県上山市の美術館は3年前、訪れた中国・大連の美術商グループ10人から収蔵品を売らないかともちかけられた。美術館の収蔵物件は4000点、国の重文もある。むろん断った。

   文化庁の江崎典宏・美術学芸課長は「アジアの新興国が日本の美術品の需要国になっていて、文化財流出のリスクは昔より高まっています」と語る。しかし、文化財保護行政は文科省副大臣がようやく緊急に実態把握をすすめると指示を出した段階だ。

   三宅久雄・奈良大教授は「(文化財保護法の)性善説は限界です。危険な状態を止めないといけない」と仕組みを見直す必要をいう。「個人でもお寺さんでも、自分のところに何があるかを把握して記録する。そこから始めて欲しい」と呼びかける。

   あらためて、そんなレベルなのかと驚く。仏像が信仰の対象でなくなって久しい、日本の文化が負うべきツケなのかもしれない。

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2013年10月31日放送「追跡 消えた重要文化財」)