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「イクボス」いま企業が求める新しい管理職タイプ!部下の私生活に配慮しやる気を引き出す

   最近の職場には、介護と仕事、あるいは子育てと仕事の両立をさせている人々、定年延長で働く高齢者、仕事もプライベートも充実させたいという社員など、従業員の価値観が多様化している。国谷裕子キャスターは「多様な人々が活躍できる組織の方がイノベーションが生まれ競争力が高いともいわれるなかで、上司は部下の能力・やる気をどうやって引き出し育成するのか。管理職のマネージメント力がますます求められる時代です。そこで注目されているのがイクボス。育児に積極的に関わってきたイクメンたちがこのイクボスを広めようと動き始めています」と話す。

育児、介護、定年延長、プライベート優先…多様化する社員

   都内のある会議室におよそ50人のサラリーマンが集まった。イクボス養成講座だ。部下からプライベートな相談を受けたとき、上司はどう接するべきか。さまざまな状況を想定した実践的な勉強会が開かれている。講座を始めたのは都内で不動産投資信託会社の社長を務め、元祖イクボスと呼ばれる川島高之さん(50)だ。

「イクボスというのは育児や介護など、部下の私生活に配慮できる上司のことです。私生活の充実こそが社員のやる気を最大限引き出す秘訣です」

   群馬県藤岡市の建設現場には高齢社員のやる気を引き出すスゴ腕ボスもいる。県から働きやすい職場として表彰された建設会社の専務の内田孝嗣氏だ。高い技術力が評判のこの会社は、社員31人のうち3割が60歳以上である。内田専務は健康などに不安を抱えがちなベテラン社員に毎日声をかける。

   国谷「内田さんは自分には関心がない話題でも雑談を続けます。その時の部下の顔色や声の調子などから健康状態や悩み事などを探ります」

   そして、ベテラン社員ならではの事情を考慮したのが、子育て休暇ならぬ、「孫育て休暇」と呼ぶ有給休暇制度だ。社員が急な事情で休んでも社員どうしでカバーし合えるよう、シフトの組み方も工夫している。内田専務は「子どもが病気になれば現場に集中できない。社員の心配事を極力なくすのがボスの責任」と語る。

管理職の評価は「何でも話せる職場を作れるか」

   国谷はゲストの佐藤博樹教授(東京大学)に「生活が充実してこその仕事。そして、なるべく任せるという川島さんのマネージメント方針、どう考えられましたか」と聞く。「管理職としてやるべきマネージメントをきちっとやれていると思いました。管理職というのは自分に課せられた課題を自分でするのではなくて、部下がきちっと仕事を意欲的に取り組むことで管理職の仕事が達成できます。部下を育て、部下に意欲的に働いてもらうために配慮するのが、管理職です。

   川島さんが従来の管理職と違うのは何かというと、いまの部下は仕事も大事だけど、仕事以外に子育てなど、いろいろ大事なことがわかっています。部下が意欲的に働くことに配慮していると思っている管理職はたくさんいますが、部下が変わってきたということを理解していない人が多いと思います」

   国谷「社員の心配事を極力なくすということですけども、その心配事を把握するということはプライベートに関わる問題だけに、難しくないですか」

   佐藤教授「仕事以外でどんな事情があるのかなどは、なかなか聞き出しにくいのは事実です。個人のプライバシーに深く関わるのはあまりよくないという議論もあります。でも、そこが分からないと、支援のしようがないわけです。ですから、やはり社員が個人的な事情などを上司に言えるような雰囲気を作っていく。そのためには、管理職自身が仕事だけではなくて、こういう大事なことがある、こんな事情があるということを職場で言えるような雰囲気にすることがすごく大事だなと思います」

   国谷「そのための最も効果的な方法はなんでしょうか」

   佐藤教授「まずは管理職の登用基準を見直しです。仕事が自分でできるだけではなく、部下に仕事を任せ部下が意欲的に働ける、そういう育成能力がある人を管理職にする。そして、すでに管理職になった人のマネージメントを変えるために、管理職の評価基準を変えるということです。時間制約のある社員でも働けるように、たとえば過度な残業をなくすとか、有休を取りやすいような職場にするとか、そういう取り組みをしたことを評価する。あるいは、部下の育成をきちっとやれる管理職を評価する。管理職の評価基準を変えれば、管理職のマネージメントも変わると思います」

   それって、昔から日本の企業では家族主義として当たり前にやられてきたことではないのか。成果主義というようになってそうしたシステムが壊れ、ブラック企業が幅を利かせるようになってしまったので、慌てて「イクボス」なんていう言葉を作って、あらためて「企業はやっぱり人だ」と言っているように見える。管理職の評価基準を変えるだけでなく、経営者の経営理念こそ見直されなくてはならないんじゃないのか。

*NHKクローズアップ現代(2014年6月16日放送「『イクボス』ってどんなボス?~人材多様化時代の上司像~」)