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北朝鮮拉致「特別調査委」の不安…形ばかりの検証で幕引きされる恐れ

   北朝鮮が特別調査委員会を立ち上げ、包括的に全面調査を行うという約束で拉致問題が再び動き出そうとしている。被害者5人の帰国から12年。政府が認定している拉致被害者のうち、いまだに安否不明が12人いる。親の平均年齢が86歳を超えるなど、問題解決は時間との勝負になっている。拉致被害者の家族は再調査をどのような思いで見守っているのだろう。

元外交官「説明の矛盾突いてものらりくらりで限界感じた」

   国谷裕子キャスターはこう話す。「今回の調査対象は政府が認定している拉致被害者だけでなく、いわゆる特定失踪者など拉致の可能性が否定できない行方不明者、さらに残留日本人や日本人妻なども加わりました。拉致被害者の平均年齢は65歳を超えています。被害者の家族の方々は、日朝間で全面的な調査を行うと合意したことについてきちんとした調査が本当に行われるのか。調査が行われたという形を取って幕引きが図られるのではないかという不安も抱いています」

   拉致被害者・横田めぐみさんの両親も再調査に大きな不安を抱えている。その理由は北朝鮮との交渉の難しさだ。2004年に調査団の一員として北朝鮮との交渉に当た元外務省の原田武夫氏は、めぐみさんが自殺した場所だとする松の木に案内された。「説明の矛盾を問い正しても、北朝鮮側は同じ説明を繰り返すだけ。北朝鮮側の主張を検証しようとしても、案内される場所は限定され限界を感じました」と証言する。

   特定失踪者の家族も不安を抱えながらも、今回の調査に期待する。42年前に妹が行方不明になった生島馨子さんは、「妹の孝子は家財道具もそのままに東京のアパートから突然いなくなりました。失踪する理由も見当たりません。しかし、証拠がないため、政府に拉致だと認定されませんでした」と話した。

   新潟市在住の大澤昭一さんの弟も、40年前に佐渡の農地事務所に勤めていて行方不明になった。大澤さんは行方不明直後は拉致されたとは考えていなかったが、12年前に拉致被害者が帰国したことで大きく変わった。政府も把握していなかった曽我ひとみさんが入っていたからだ。

カードは日本側―金正恩にどこまで要求飲ませられるか

   国谷は拉致問題を取材し続けているNHK社会部の今西章記者に「拉致を否定できない方々が470人から860人いるといわれています。全員帰国というのはハードルが高くありませんか」と聞く。「こうした方々は警察当局の捜査で、拉致かどうかがはっきりしていない方々です。政府は全員を帰国させるとしていますけれども、助けるべき被害者の全体像を把握できていないのが現状です。全員をどう救出するのか。何をもって解決とするのか。むずかしい舵取りに迫られていると思います」

   再調査はどのように進むのだろう。今西はこう解説する。「あす1日に開かれる日朝政府間協議で、北朝鮮が特別調査委員会について日本側に説明することになっています。日本側はその権限、組織を見極めた上で対応を協議することにしています。実際に調査が始まり、北朝鮮側が調査結果を伝えてきた際には、外務省や警察庁の担当者からなる検証チームを現地に派遣することにしています」

   国谷「元外務省の原田さんは、北朝鮮の主張を検証しようとしたが限界を感じたと話しています。きちんと調査が行われているかどうか。日本はどんな戦略で臨むのでしょう」

   今西「帰国した拉致被害者の一人の蓮池薫さんに以前インタビューした際に、蓮池さんはとにかく北朝鮮は体制を維持することが第1目標と話してました。経済状況の改善が必要で、日本を必要としているのだと話していました。拉致問題を解決することで、国交正常化と経済協力という日本には大きなカードがあるのだという話をされていました。このカードをうまく使って、拉致被害者の帰国という決断を北朝鮮からどう導き出すのか。ここが問われていると思います」

   中朝がギクシャクしている現状は、日本にとって切り札の有効性が強まるということでもある。金正恩・第一書記の足元を見ながら、こちらの要求をどこまで受け入れさせるか、対北朝鮮外交の正念場である。

ナオジン

*NHKクローズアップ現代(2014年6月30日放送「拉致再調査 思いは届くのか」)