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人気低落プロ野球支える「野球女子」選手の活躍ナマで見て「私も頑張ろう」

   今月(2014年7月)18日から行われるプロ野球オールスターゲームは、ファン投票で広島カープから8人が選ばれる異例の展開になった。後押ししたのは「野球女子」の中でも熱い応援をする「カープ女子」だ。

   いま、女性ファンがプロ野球を動かし始めている。球場ではチームのグッズを身に付け熱い声援を送る。球団も「女性ファンをしっかり獲得していくことが球団経営にとって必要不可欠」と、女性目線による商品開発など企画に力を入れている。

いまやファンクラブの半数近くが女性

   プロ野球12球団のファンクラブで、女性ファンの割合が4割を超えているチームは4つある。楽天とソフトバンクが45%、日本ハム44%、広島42%である。かつて球場はビール片手に観戦する男性ファンの場だった。今は違う。女性たちが友だちと連れ立ってやって来て、気に入った選手が登場すればメガフォンで大声援を送る。野球女子の出現によってガラリ球場の雰囲気は変わった。

   選手を応援するテーマソングを歌って盛り上げたい。おしゃれに応援したい。野球女子の楽しみ方はさまざまだが、共通しているのは勝ち負けにとらわれない熱い眼差しだという。日本ハムを応援する28歳の女性もその一人だ。大観衆の声援が一息つくのを見計らい、ひときわ大きな声で「マックー!」「ハルキー!」「ケンシー!」と止まらない。「ドームに来るとスイッチが入るのです」という。

   この女性は以前は人前に出るのが苦手だった。7年前から正社員の仕事を探しているがうまくいかず、派遣の仕事とアルバイトを掛け持ちしている。職場を転々とするため深い人間関係が築けず、自信を失っていった。「引っ込み思案になり、無口になったんです」

   変わったのは母親と連れ立って野球の応援に来てからだった。ユニフォームを特注し、全身をグッズでコーディネートすると、新しい自分に変身できた。「野球を応援していくうちに、自分がどんどん変わっていって、新しい自分を見つけました。明るい自分になっていったんです。自分の居場所をやっと見つけたのは大きいですね」という。

   川崎市に住む20歳の女子大学生は「3連戦の時は必ず1回は行くようにしている」という熱心なカープ女子だ。来年には就活が控えており、スポーツ関係の仕事を希望しているが、「今度こそ諦めずに頑張ろう」と誓っている。

   というのは、3歳からバレエを習い、中学卒業後はロシアへ留学を考えたが、自信が持てずに諦めたことが心に引っかかっていた。「次に何かやろうと本気で決めた時は諦めずに挑戦しよう」と思いながらも、就活に不安が募る。

   そんななかで勇気をもらったのが、巨人から広島に移籍した一岡竜司投手(23)だった。一岡は巨人時代の2年間で1軍で投げるチャンスはほとんどなく、主要な投手とみなされずに巨人を離れた。巨人時代に味わった挫折と悔しさをばねに、広島では開幕ダッシュを支え、4月には古巣・巨人を抑えて悲願のプロ初勝利を果たした。女子大学生は同世代の一岡の活躍を見て、「お手本にし、自分も諦めずに頑張ろうと思う」と自らを励ましている。

   親会社を持たない市民球団として結成された広島は、どこかのチームのように潤沢な資金で有力選手を引っ張ってくることはできない。若手選手にチャンスを与え、自前で選手を育てる方針を貫いている。カープ女子の特徴は、そうした選手たちが努力し成長していくストーリーに共感し、自分の人生と重ね合わせながら熱い声援を送り続けるところにあるという。

もう「私を野球に連れてって」じゃない!最後まで応援する達成感

「つばカールです」「オリ嬢です」「ベイスター女子です」

   カメラの前で明るくポーズをとり屈託なく笑う野球女子の思いについて、野球ファンの香山リカ(精神科医)とスポーツジャーナリストの生島淳が語った。

   国谷裕子キャスター「男性ファンとして、野球女子をどう思いますか」

   生島「7回が終わった時点で、ひいきのチームが大差で負けていたら男性は帰るんですよ。ところが、最近の女性ファンは試合の展開がどうであろうと、最後まで応援し続ける。かつて女性は男性に連れられて男性がお金払って観戦に来ましたが、今は自分でお金払って主体的に楽しむ形に明らかに変わってきました」

   香山「球団や選手とのつながり、応援団同士の仲間意識で、昔のようにただ見せてもらっているという距離感なくなっているんです。応援スタイルもいろいろ変わってきました。それぞれの選手の主題歌やテーマソングがあったり、それを最後までやり遂げる。そこに応援でやりきったという満足感、達成感を1試合ごとに感じる。途中で帰るのはもったいないと…」

   国谷「球団としてこの流れをしっかり根付かせたいですよね」

   生島「1試合の観客動員数は1990年代に3万人いましたが、いま2万人に落ち込んでいます。それを野球女子が支えている。経営的に先行き不透明な部分があり、それを女性ファンが支えてくれるかもしれないというのはありますね」

   野球女子の参入だけで低迷からの脱出ができるかどうか…今のところ答えは出ていない。

モンブラン

*NHKクローズアップ現代(2014年7月2日放送「『野球女子』私が球場に行く理由」)