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厚労省「減塩大作戦」加工食品の塩分減らせ!イギリスのトマトケチャップは日本の半分

   「生活習慣病を防ぐのに、禁煙の次に重要なものは?」と街で聞いてもなかなか答えがない。正解は「減塩」だ。塩の摂りすぎは体に悪いとだれもが知っていても、切実感が乏しいらしい。そんな現状に政府は来年4月(2015年)から塩の摂取量減らしに踏み込む。

   日本人の1日平均の塩の摂取量は、最新の世界標準の測定法で、男14グラム、女11.8グラムだった。厚生労働省が出している標準が、それぞれ9.0グラム、 7.0グラムだから、とんでもない量だ。しかもこれを、8.0グラムと7.0グラムにしようというのだから容易ではない。

家庭料理で塩分控えても食材にたっぷり

   埼玉県に住む主婦は、夫が高血圧と診断されてから減塩に取り組んだ。しかし、実際に夕食を調べてみると5.9グラムもあった。日本高血圧学会が推奨する1日6グラムに近い量を夕食だけで摂っていた。料理に使った塩は0.7グラムにすぎなかったが、食材がたっぷり塩を含んでいたのだ。

   日本人は塩分の7割を加工食品から摂っているという。醤油、マヨネーズ、ソーセージ、ハム…。味がよくなるのと保存のためという。これでは主婦がいかに減塩に努めても追いつかない。厚労省の減塩作戦も最終的にはこれら加工食品に狙いを定めている。

   お手本はイギリスにあった。イギリスでスーパーに並ぶ食品の塩分表示を見ると、たとえば「食パン」は1グラム(日本1.27グラム)、トマトケチャップ1.8グラムは日本の半分に近い。英政府が「8年間に1.4グラム減らす」と進めた減塩作戦の成果だ。どうやったのか。

   英政府はあらゆる食品業界を巻き込んで、商品ごとに数値を定めて減塩を迫った。塩を減らせば味が落ちると企業は抵抗した。そこへ科学者グループがある提案をした。人は6週間で薄味に慣れるという研究結果があるそうだ。そこで、少しづつ時間をかけて段階的に減らすという方法を示した。

   これで、たとえばパンの業界は「3年間で100グラム当たり10グラム減らす」という目標を設定した。同様にチーズ1.7グラム、ポテトチップス1.5グラム、ケチャップ 1.8グラムと商品ごとに目標を定めて、次々と達成したのだ。消費者は減塩に全く気づかなかったという。

   その結果、心臓病の患者が減り、毎年2600億円もの医療費の削減につながったという。プロジェクトに携わった「塩と健康 国民運動(CASH)」は「費用対効果はすばらしい。企業も国民の健康に責任を果たした」と話す。

広島・呉市は学校給食に減塩目標「少しずつ減らして薄味に慣れよう」

   日本でも一部食品メーカーが減塩食品の製造に踏み切ってはいる。だが、味が落ちるのを補うために添加物を加えるなどコストがかかり、市販品より割高で売れ行きもいまひとつだ。消費者も低カロリー食品には目がいくが、減塩商品にはなかなかという。

   佐々木敏・東大大学院教授はその理由をこう話す。「減塩に緊急性を感じていないからです。多くの人は高血圧になってから減塩を考えますが、まったく違います」

   人間の血圧は20歳くらいから直線的に高くなるものだが、減塩によって上昇をゆるやかにすることができる。「人間が必要とする塩分は1日 3グラム。5グラムで止めれば高血圧にほとんどならないのではないか」とまでいう。さらに「命を支えるのは医療だと考えがちですが、それは病気になってからのこと。毎日の食品で段階的にゆっくり、これが減塩の健康効果のカギです。食品産業だからできる」と期待をこめた。

   いま注目は広島・呉市だ。学校給食で減塩目標を立てている。2011年で1食3.1グラムだったものを2.3グラムにしようと、さまざまな工夫を凝らす。毎年0.2グラムづつ減らして、目標はもうすぐだ。子どもたちはいまや「給食の方が味がいい」という。「それで家庭の方の味が薄くなっていったらいい」と市の担当者がいっていた。なるほど考えたもんだ。

   本当に人は薄味に慣れるものなのか。だったら早いとこ気づかないように減らしてもらいたいもんだ。この際、美味しんぼは放っておこう。あいつらがくると話がややこしくなる。

NHKクローズアップ現代(2014年9月4日放送「道は険しい?『減塩社会』への挑戦」)