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阪神・淡路大震災20年・・・「暮らしと心の復興は半分以下」ローン返済に追われる高齢被災者

   阪神・淡路大震災からきょう17日(2015年1月)で20年になる。NHKは2700人を対象にアンケート調査を行い928人から回答を得た。震災当時40~50代の働き盛りだった人たちの5人に1人が、「暮らしと心の復興が震災前の半分以下」と答えていた。苦境を伝える声は切実だ。

「一生復興はない」(73歳男性)
「正直へとへと」(55歳女性)
「全財産をはたいて家を買ったが、生活苦はローンとともに始まった。それだけで終わった」(73歳女性)
「震災は何だったのか。走っても走っても終わらず、ローンは75歳まである。心の平静を得たい」(69歳女性)

子ども失った母親「時間で解決はしない。悲しみは深くなって・・・」

   兵庫区の長田宏二さん(67)は家の倒壊で母親を亡くし、夫婦と子ども2人の暮らしになった。「子どもに家を」と7か月後、2800万円でマンションを買っ た。公的支援は5年間の利子補給だけだった。月7万円の返済でなお1870万円が残っている。老後の蓄えは子どもの教育費に消えた。

   定年後も警備員のアルバイトをしている。毎日8時間働いて月に15万円ほどだ。アンケートには「家のローンで苦しんでいます」と書いた。

   「復興度ゼロ」と答えた人がいた。成田悦子さん(69)は5年前に夫の憲弘さんを亡くし、神戸市の支援住宅に1人暮らしだ。夫婦で居酒屋を営んでいた。倒壊した家の下敷きになったが、駆けつけた常連客がレスキュー隊を呼び、48時間後に救出された。「あれらのお陰で助かった。恩返しや」と10か月後に500万円のローンを組んで再開した。常連も戻った。10年後のアンケートには「暮らしと心の復興は半分」とある。

   だが、長田区の再開発が進むと常連客が街を離れはじめ客足も遠のいた。悪い事に憲弘さんがガンになり、悦子さんも後遺症の右半身マヒが残る。13年目に 店を畳んだ。さらに夫をなくし、悦子さんの復興は「ゼロ」になった。「友人知人が心配してくれて、いまを生きている」

   家族を失った人たちの声も悲痛だ。

「家族を失った人に復興はない」(62歳男性)
「子ども2人を亡くし、生きていれば何歳だろうと思う。神も仏もないと思っている」(57歳男性)

   不動産関連事務所を営む岡部香津子さん(66)・克馬さん(67)夫婦は、大学3年だった長男の正則さんを亡くした。卒業したら事務所を継ぐはずだった。

「なんで、うちの子が・・・」

   香津子さんは3年後、51歳で大学に入学し、8年かかって卒業した。息子を継いだつもりで、忘れようと努力して働いてきたが、65歳を過ぎ、そろそろかと思い始めている。アンケートには「20年が経とうと、時間で解決はしない。悲しみは深くなって、子どものことは死ぬまでもっていく」と書いた。

街は復興し商店街は再建・・・それでも戻ってきた住民は3割

   アンケート結果について、「人と防災未来センター」の岩崎信彦・神戸大学名誉教授は「問題は2つある」という。働き盛りだった人たちは住宅や営業資金で2000万円台のローンをかかえる。政府は個人資産への支援をしなかった。代わりに1兆5000億円の貸し付けを用意した。これがローンに苦しむ結果になった。(東日本大震災では個人に 300万円が出た)

   もうひとつが再開発で街が壊れてしまったこと。長田区は確かに復興した。ビルも建った。商店街も再建された。しかし、人は3割しか戻っていない。居酒屋が常連客を失った理由でもある。人口は増えているのだが、どうしたら新長田に客を呼び戻せるか、答えはまだない。

   アンケートでは、家族を亡くした人の復興度が高いという。岩崎氏は「子どもの分まで生きようとしている。素晴らしいこと」というのだが・・・。

   20年たって働き盛りも定年前後である。いまもって復興は「半分以下」と答える人たちの震災後がいかに過酷だったか。せめて老後に、行政の一層の心配りを願うばかりだ。

NHKクローズアップ現代(2015年1月15日放送「取り残される『働き盛り』~阪神・淡路大震災20年~」)