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FIFA汚職一番のワル「ワーナー元副会長」開き直り!私は何か悪いことしたでしょうか

   先週行われたサッカー女子W杯カナダ大会の表彰式で、FIFAの幹部らが姿を現すと観客から一斉にブーイングが浴びせられた。185億円もの不正のカネをやり取りしていたとして、幹部9人を含む14人が起訴されたFIFA(国際サッカー連盟)の汚職事件では、関係者からも「W杯はカネのなる木」(元幹部)、「史上最大の詐欺師集団」(FIFAに関連する会社の元社員)などといった声が上がっている。

   これまでに分かったFIFA幹部の不正の内容は、W杯開催地の決定、試合の放送権、スポンサー権などのビジネスをめぐる利権に便宜をはかる見返りに、ワイロを要求し私腹を肥やすものだった。米司法当局がまとめた160ページの起訴状には、いつどのような形で、誰から誰にカネが渡ったのかが詳しく記されている。

   それによると、1995~1998年に316億円だった収入が、サッカー人気の高まりとともにスポンサー権料や放送権料が高騰し、2011~2014年には7033億円と25倍に膨れあがった。ところが、運営するFIFAは、会長を筆頭に副会長8人、理事16人の合わせて25人の理事会に権限が集中する閉鎖的な組織がそのまま維持され、金権体質がはびこる温床になっていった。

会長と二人三脚で「カネと票」ワイロ20億円

   不正取引の中心にいて最も多くのカネを受け取っていたのが、元副会長のジャック・ワーナー(トリニダード・トバゴ)だった。ワイロは分かっただけでも20億円を超えている。

   サッカー小国のトリニダード・トバゴのサッカー協会会長だったワーナーが、どのようにしてFIFA副会長として権力を握るようになったのか。背景にはFIFA前会長(1974~1998年)のジョアン・アベランジュの拡大路線がある。W杯の出場枠を増やすために、アジア、アフリカ、北中米などに割り振り、サッカー新興国の取り込みを図った。1990年に北中米サッカー連盟会長に就任したワーナーは、この拡大路線に乗って周辺島国をつぎつぎとFIFAに加盟させて発言権を強め、FIFAの理事に就任する。起訴状によると、このころからワーナーは不正を行うようになったと記されている。

   さらに、W杯フランス大会が行われた1998年に、ワーナーは一気に権勢を拡大する。会長選挙で現会長のゼップ・ブラッターが当選したが、副会長に就任していたワーナーが北中米カリブ海諸国の票をとりまとめ、当選に大きく貢献したとされる。

   ブラッター会長の側近だったFIFA元幹部は、「これを機に会長とワーナーは互いに利用し合う関係を築いていった。会長は票を手に入れ、ワーナーは現金を手に入れた。会長はワーナーのやりたい放題を黙認。息子をFIFAに入れたいというワーナーの意向で新たな役職を作ったこともあった。すべて票のためです」と証言する。

   サッカービジネスが急速に発展していったのもこのころからで、FIFAの利権が急拡大する。起訴状によると、この時期、ワーナーに頻繁にカネを提供するようになったのが、スポンサー権料や放送権料のビジネスを手掛け、ブラジルに本部を置くトラフィックグループだった。ワーナーにはこのグループから1度に数千万円が渡された。

   ワーナーは地元で新聞社やホテルを経営する実業家として成功し、サッカー振興を目的としたFIFAからの資金でスタジアムを改修するなど貢献が認められ、国会議員でもある。

「史上最大の詐欺集団」に自浄期待できるか?

   ワーナーは米司法当局の起訴を受けて地元の警察に身柄を拘束されたが、5000万円を支払い現在は保釈されている。ワーナーが疑惑にどう答えるか。「クローズアップ現代」の記者がトリニダード・トバゴでインタビューした。

「私の力で北中米カリブ海のW杯出場枠が1から3.5に増えた。それでわが国はW杯初出場を果たせたのです。私の貢献は誰の目にも明らかです。私が何かしたというのでしょうか、悪いことなど何もしていません」

   辞任を表明したブラッター会長の後任を決める臨時総会の日程が、近くスイス・チューリッヒで開かれる臨時理事会で決まる。そのFIFAの理事に今年5月(2015年)選ばれた田嶋幸三・日本サッカー協会副会長に国谷裕子キャスターが聞く。

「普通は大きなスキャンダルが起きると、組織は第三者の目を入れて徹底的に問題を洗い出し、対策を打ち出します。FIFAはその方向に向かうのでしょうか」

   田嶋理事「そういう方向に向かう今がチャンスだと思わなければいけないと思います。選挙の方法やマーケティングなど、透明性を増やしていく必要があります。会長や理事の任期や定年制についてはすでに話し合いが行われており、実現させなければいけないでしょうね」

   ゲームではファールには厳しくペナルティーを科すサッカー競技とは対照的に、FIFA内部では不正を知りながら誰もレッドカードを出さなかった。果たして自浄を期待できるだろうか。

モンブラン

*NHKクローズアップ現代(2015年7月16日放送「FIFA 腐敗の深層」)