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若者「落語ブーム」ダメな自分も受け入れてくれる懐の深さ・・・さだまさし「噺に救われる人多い」

   若者の間で落語ブームが巻き起こっている。サラリーマンが家路につく夜9時の東京・新宿に若い人たちの長い行列ができていた。有名アイドルのライブではない。落語のイベントだ。落語のイベントは東京周辺だけで月に1000件も開催されており、落語家がファンの自宅へ出向く宅配落語も盛んだという。

   高校時代は落研にいたシンガーソングライターのさだまさしと世代・トレンド評論家の牛窪恵氏が落語ブームの背景を探った。

春風亭一之輔「人との絆、人情など失っってしまったゆとりの世界」

   若者の落語ブームを牽引する一人が春風亭一之輔だ。1年間に上がる高座は850回。すでに来年のスケジュールも埋まっている。古典落語を現代風にアレンジした噺を得意とし、人気の秘密もそこにあるようだ。一之輔は「古典芸能に納まり切っちゃうと危険なんじゃないですか。大衆芸能であるべきだ」と語る。

   古典落語には笑いだけでなく、人との絆、人情など今の社会が失った「ゆとり」がある。一之輔は「きっかけさえあれば、そうした落語の魅力を感じる人が少なくないのではないか」という。

   真打、二つ目、前座の噺家はいま約800人いる。久保田祐佳キャスターは「中学時代から落語ファンのさだまさしさんは、どう思っていますか」と聞く。「落語の噺は失敗した人の話が多いんですね。いまは失敗するとドンドンへこまされるけど、落語の中の失敗は笑いに変わっていく。一生懸命頑張っている人が報われたりする。現実にはなかなか起きにくいことが目の前の噺の中で出てくると、救われる人が多いのではないでしょうか」

SNSで増幅する孤立感と不安「もっとぬくもりや人情感じたい」

   落語ブームを牽引するファンの心理について、牛窪恵氏は次のように分析する。「今の生活とか、インターネットは何かが違うと思っている人が多いですよ。でも、なかなかSNSとかから解放されない。逆に、SNSが繋がらない『圏外旅行』に行きたい若者が4割ぐらいいます。ぬくもり、人情を感じたいという人間の情に近いものが、落語に凝縮されていることに気付き始めたのでしょう」

   故・立川談志には「落語とは人間の業を肯定することだ」という言葉がある。人との交わりが少なくなり、人情が薄れてしまったなか、若い人たちの間に、人間の善悪の行いやその報いを笑いで納める落語のぬくもりやゆとりに、魅力を感じる新たな風が吹き始めているのだろう。

NHKクローズアップ現代+(2016年10月19日放送「『平成落語ブーム』とかけて 若者と解く その心は!?」)