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何かが始まっている・・・世界各地で声上げ始めた若者たち「こんな世の中ヘンだろ!」

   アメリカ次期大統領にドナルド・トランプが決まったが、CNNの出口調査によると、29歳以下では55%がヒラリー・クリントンに投票し、トランプは37%に過ぎない。「ミレニアル世代」と呼ばれる世代である。彼らに共通するのは、格差や将来への不安による強い閉塞感だ。

   同様に既存の価値観に異を唱える若者の動きは世界中で広がっている。アメリカでは、ウォール街占拠、サンダース旋風、台湾のひまわり運動、香港の雨傘革命、スペインでは若者が政党作りに成功した。日本では昨年(2015年)、国会デモで社会現象となったSEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)があった。この8月(2016年)に解散したが、社会はこの1年、受け入れの可能性と限界をさまざまに示したのだった。

これまでとまったく違ったSEALDs国会前デモ

   SEALDsの中心メンバーだった奥田愛基さんは、いま政治勉強会などをしながら、運動にどんな意味があったのか考え続けている。「最低限言わないといけないことを言うことが社会に必要だった」と語る。SEALDsは市民運動の形も変えた。指揮系統もなく、ラップのライブ会場さながら、SNSで情報を拡散させ、名前も顔も出して自分の言葉で語りかけた。警備の警察との関係すら違った。「けが人が出ないように」「よろしくお願いします」

   奥田さんが育ったのは「失われた20年」だった。中学でいじめにあい、沖縄の離島に転校した。「疎外、無視、いじめ。学校でも社会でも違和感を持つ人はいます。それを社会の問題、病として考えられるかどうかですね」という。

   もう一人の牛田悦正さんは17歳で父を亡くし、家に負担をかけまいと480万円の奨学金で大学へ入った。翌年、東日本大震災で原発の安全神話が崩壊し、政治と向き合うきっかけになった。「ゴミ処理に10万年かかるような代物(核廃棄物)を電気のために使っちゃう。未来の人間への配慮のなさ。自分もその中にいた。これはダメだと気が付きました」

   ミレニアル世代の刺激も受けた。SEALDsも既存政党を巻き込んで社会現象にまでなった。しかし、偶像化、殺害の脅迫もあった。他の世代の代弁をさせられた、本来の思いが埋もれたという指摘もある。結局、掲げた目標は達成できなかった。

ロバート・キャンベル(東京大教授)「世代の広がり、継続が課題」

   慶応大の小熊英二教授(歴史社会学)は「21世紀型の社会運動ですね。人々が持っている政治への不満を表現する触媒になり、小さなグループでも効果を示すことができました」と分析し、きちんとした検証が必要だという。

   日本大の先崎彰容教授(近代日本思想)は「問題を掘り下げるきっかけになりました。ただ、ワンフレーズをラジカルに切り取った手法から、二項対立の批判が出て、第三極が出なかった」と残念がる。

   東京大のロバート・キャンベル教授は、「デモを見ていて、既存のイデオロギーに取り込まれた面がありました。一方、実名で語る若者が現れて、突破口を作っていった。日本としては新しい、珍しいことだったが、継続につながらなかった。日本は大人社会との接点が少ないから」と話す。

   SEALDsの現場は従来の政党や労組主導のデモとは一味も二味も違った。ただ、ラップまがいの絶叫や同じフレーズの繰り返し、拡声器と太鼓は、デジャビュ感は拭えなかった。大勢の高齢の男女が互いに語り合うでもなく、道路で木陰で公園の植え込みでテレビカメラに追われる若者の姿をじっと見ていた姿が目に残る。

   警察はデモを歩かせなかった。封じ込めだ。SEALDsにも街に出て歩くアイデアはあったかどうか。そういうノウハウは既存の組織でないと出てこない。飛び出した素人と置いていかれた玄人と。キャンベル教授の言う「接点」とはそういうことかもしれない。

NHKクローズアップ現代+(2016年11月10日放送「声を上げる若者たち~『格差』『不安』・・・ いま世界で何が~」)