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山形・金山町で日本初のがん探知犬を活用 尿の臭いから高確率で判別

   がんの早期発見に新たな可能性が出てきた。山形県の自治体では全国で初めて今月(2017年5月)から、人の遠く及ばない鋭い嗅覚を利用した『がん探知犬』を町民の健康診断に活用するという。番組が、人間の異変を感じ取ってくれるがん探知犬の優れた嗅覚に迫った。

   がん探知犬による健康診断の導入を始めたのは山形県金山町。導入の理由について町立金山診療所の柴田昭英・地域医療推進委員はこう話す。

「がん検診を受けるのはけっこう負担がある。胃カメラやバリウムを飲むとか抵抗があり受診率も伸び悩みがある。検診に対する関心を高めてもらうことと、早期発見を格段に向上させることが狙いだった」

   金山町を含むこの地域は、女性の胃がん死亡率が全国ワースト1位と雑誌に掲載されたこともあり、町では100万円の予算を計上し、40歳以上の町民3800人のうち希望者を対象にがん探知犬に検査を依頼することになったという。

   導入のアドバイスをした千葉県の日本医科大学千葉北総病院の宮下正夫副院長によると、「私が準備したがん患者の尿をがん探知犬に識別させたら、ほぼ100%、約400件のがんを当てた」と自信のほどを披露する。

日本に5匹のがん探知犬

   人の遠く及ばないがん探知犬の鋭い嗅覚とはどんなものなのか?そこで日本でわずか5匹しかいないがん探知犬を育成、訓練している千葉・館山の『がん探知犬育成センター』(佐藤悠二所長)を訪れた。

   健常者の尿の入った細い容器50本を10本ずつ小箱に区分けし並べる。食道がん患者の尿を入れた容器をその中に紛れ込ませ、がん探知犬に嗅ぎ分けてもらう訓練。

   佐藤所長が登場したがん探知犬のビーちゃん(6つ、メス)にまず、別の大腸がん患者の呼気を入れた袋から呼気の臭いを嗅がせ訓練スタート。並べられた小箱を一つひとつ嗅いでいったビーちゃんが紛れ込ませた食道がん患者の尿を入れた容器の前で立ち止まり、「ここだよ」と佐藤所長に振り向いて知らせた。

体から出るものならなんでも探知

   佐藤所長によると、「尿も呼気も汗でもがん患者の体から出るものはがんの臭いが含まれており探知できる。今のところほぼ100%で」という。

   佐藤所長と共同研究している佐賀・伊万里有田共立病院の園田英人外科部長は「探知犬が臭いの中の物質の何に反応しているのかははっきりわかっていない」と話す。しかし、「ポリープに微量のがん細胞が混ざっているごく早期のがん患者でもがん探知犬は反応している」ことから、がんの早期発見も可能という。

   がん探知犬は現在、胃がんや肺がん、大腸がんなど約30種のがんの存在を識別できるが、難点は、がん発症の場所まではわからない。「どこにあるかは横着しないで人間が調べてよ」というわけだ。

   ただ国文学研究資料館のロバート・キャンベル館長によるとこんな指摘もある。

「欧米の研究者の中には、医療現場で応用するには限界があるという意見がある。研究室の中では100%でも、実際の医療現場の初期検査ではたくさんの検体を検査しなければいけないために、犬の性格としては続かない。グッと精度が落ちると言われている」

   取材した西村綾子リポーターによると、このため現在5匹いるがん探知犬による検査は月に100件~200件が適度とされ抑えているという。

   ビーちゃんを入れて日本にわずか5匹しかいないというのも心もとないが、この5匹はいずれも、ものすごく嗅覚の良いある犬の血を引いた貴重な犬たちという。