ゲストにとっての〝海外にある第二の故郷〟を巡りながら、人生を掘り下げていく紀行番組である。この日のゲストは画業50年を迎えた漫画家・永井豪だ。1967年にデビューして、「ハレンチ学園」「マジンガーZ」「デビルマン」「キューティーハニー」など、数々のヒット作を出し続けてきた。
そんな永井が訪れたのはイタリア・ローマだった。永井作品の多くがイタリア語に翻訳・出版されており、永井は講演会、サイン会、映画祭などで何度も訪れている。
空港ではイタリア人ファンたちが出迎えて、「イタリアで先生のスーパーロボットを知らない人はいません」と日本語で熱く語り、永井が街を歩けば、カフェではサイン攻めだ。
イタリアで永井の人気を不動のものにしたのは、1979年に放送された「鋼鉄ジーグ」だった。イタリアで最初に放送された日本のロボットアニメで、少年少女たちに多大な影響を与えた。
永井はこれまでの漫画のアイデアの源となってきたという古代遺跡や建築物、美術館、シネチッタ(映画撮影スタジオ)を巡りながら、50年の漫画家人生を振り返る。「ハレンチ学園」がヒットした後、ギャグ漫画家としてしか世間に見られていないことに悩んだ永井は、コロッセオから「鬼」という短編作品を思いつき、ストーリー漫画家に転身するチャンスを得た。「マジンガーZ」は美術館に飾られていた中世の鎧がモチーフなのだという。
永井にとっては、ローマはいまもアイデアの宝庫だ。シネチッタでは古代ローマの市街地を再現したセットをすみずみまで見て歩き、つい立ち入り禁止の場所に足を踏み入れてスタジオスタッフに怒られるという一幕もあった。
「鋼鉄ジーグ」に感銘を受けて、「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」という映画を作ったガブリエーレ・マイネッティ監督とも再会した。この映画はイタリアのアカデミー賞と呼ばれる映画賞で7部門を受賞し、日本でも2017年に公開された。
マイネッティ監督は「私と同世代の者はアメリカのヒーローよりも永井豪のヒーローたちに親近感を覚えるのです」と語る。その理由は、永井豪のヒーローには善悪に明確な線引きがなされていないから。アメリカのヒーローが葛藤する場面は少ない。永井の作品は「何事も白黒だけでは量れない」「人生は複雑だ」と、人生について考えざるを得ない。「漫画に込められたそういったメッセージが、若い世代には最高の贈り物なのです」という。
いま葛藤していることについて、永井が話した。現在、ビックコミックで「デビルマンサーガ」を連載しているが、どうしても過去に成功した作品のリメイクを編集者や世に求められがちだ。でも、「いままで発表していない作品をやりたい」という。「あす描く作品が、もしかしたら最高傑作になるかもしれないという期待をいつも持っている」「失敗作を含めて、なんでも恐れずにやるというのが自分のいいところかな」と穏やかに語る永井豪、72歳。
永井がイタリアでも多大な影響を与えていたことに驚かされると同時に、「自分もなにか動き出さないと」という気持ちを振るい起こさせる、新年にふさわしい30分だった。(1月5日深夜23時15分放送)
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