J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

気付いてる?「食品スモールチェンジ」値上げできないので小さく

   SNSの「#くいもんみんな小さくなってませんか日本」という投稿が注目を集めた。たしかに小さい。牛乳などパック飲料は、1リットルだったのが900ミリリットルになっていたり、チョコ、チーズ、ミートソース、ソーセージなども量が減っていた。

   関西のおにぎり工場で、深夜に1個100グラムを95グラムにする「スモールチェンジ」の作業が行われていた。わずか5グラムだが、のりを挟んだフィルムが合わずぶかぶかになる。機械の調整は夜通し続いた。

   スモール化の理由は米の値上がりだ。3年で3割上がった。「年間1200トン使います。1キロ10円上がると1200万円。苦渋の選択です」と社長は説明する。輸入7割の食料自給率を上げようと、農林水産省が飼料米に補助金を出した。それで転ずる農家が増え、食用米が減って価格が上がった。

   菓子の原料のカカオ豆、油脂、ナッツは円安で上がった。貨物船の運賃上昇、ドライバー不足で物流コストも上昇している。メーカーは「値上げより小さくする方が客の拒否反応は少ない」と考えた。実質値上げである。

円安で原材料軒並み値上がり

   「スモールチェンジ」は2008年、海外の穀物の値上がりを小売り価格に転嫁できなかった時にもあった。その後落ち着いたが、13年、14年、15年と続いたのは、アベノミクスと日銀の金融緩和が円安を誘導したからだ。早稲田大大学院の野口智雄教授は「20年に及ぶデフレ不況で、安いのが当たり前というイメージが定着して、値上げができないんです。これが大きい」と話す。

   東京大大学院の渡辺努教授は「給料が上がっていれば問題ないですが、この16年間に欧米では賃金は1.5倍くらいになっているのに、日本は変わっていない」という。グラフを見ると、むしろ下がり気味だ。消費者はシビアにならざるをえない。

   富山のかまぼこ製造会社は「小さくしたくてもできない」と頭を抱えている。創業から90年、質の高い手作りかまぼこが売りだった。しかし、原料の米国産スケソウダラのすり身の値上がりに直面していた。「今年は500万円は増える。このまま上昇傾向だと厳しい」と4代目社長の中陳新平さんはいう。大手はすでに「スモールチェンジ」済みだが、中小では難しい。包装のフィルムを変えるとなると数百万円はかかるからだ。その余裕はない。品質を落とせば、客が離れる恐れもある。

   スケソウダラの値上がりは世界的な需要の変化が原因だ。かつては日本と韓国だけだったものが、いまやヨーロッパや東南アジアでサラダや軽食材料としてカニかまの需要が急増し、ヨーロッパの消費は日本の3倍になった。従業員31人の中小企業に世界の事情は重すぎる。

   廃業に追い込まれたもやし業者もいた。主産地の中国で人件費が高騰し、原料の緑豆が5年で2倍近くに値上がりしたのだ。しかし、もやしはスーパーの客寄せ商品だから、値上げどころか1円でも安くと買い叩かれる。赤字に転落してそのまま廃業となった。

   製品の質を下げた豆腐業者もあった。円安で大豆が高騰しているにもかかわらず、小売りから値下げを求められ、水で薄めて原価をカットした。「水の味しかしない。断腸の思いです」と業者はいう。

アベノミクスで進む「安値社会の歪み」

   ちょっと愉快な話もあった。群馬県済生会前橋病院は1年間に受診する患者が21万人という大病院である。入院患者の食事は院内で調理しているが、患者の状態に合わせて献立は30種類にもなる。ここでも「スモールチェンジ」が行われていた。

   シャケの切り身を80グラムから60グラムにした。ちくわは100グラムを85グラム、ヨーグルトも500グラムが450グラムへ。不足するたんぱく質はマヨネーズで補うなど、国の基準の中でのやりくりしている。その状態に風穴を開けたのが「フードロス」だった。流通の途中で包装に傷がついたりして店頭に並べられなくなった食品をまとめている団体から、配送費だけで無料で提供してもらう。品質には問題はない。けっこうな経費削減になる。

   「スモールチェンジ」はアイデアではある。だからといって、歪みを抱えたまま安値を続けるのはどう考えてもおかしい。渡辺教授は「公正な価格についての、社会の常識を取り戻すことが必要です」と指摘する。もう一つ、アベノミクスと円安にも目を向けるべきではないのかな。

NHKクローズアップ現代+(2018年1月18日放送「#くいもん小さくなってませんか 食の"スモールチェンジ"裏事情」)