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「鬼面人をおどす」鬼だらけの側近で固まったトランプ政権 安倍首相の「お友だち路線」では日本は譲る一方だ

   米国トランプ政権に異常事態が進行中といわれても、もう誰も驚かない。それぐらい思わぬことを唐突にやり続けてきたトランプ大統領の足元で、閣僚や側近の解任が相次いでいる。

   政権にいた80人近い中枢メンバーのうち35人が去り、代わって登用された顔ぶれは対外強硬派がずらりと並ぶ。「鬼面人をおどす」という言葉は見せかけで人を驚かす交渉術やケンカのたとえだが、これで世界がおさまるのだろうかと不安になってくる。実務を担う国務省高官も、議会承認が必要な160ポスト中92が空席のままだ。「この政権で人生を費やしたくない」と人材が去る退任ドミノが止まらない。

何を言い出すかわからず、自分の望むことを言う人物だけを好む

   先月(2018年3月)も、協調派といわれたティラーソン国務長官が退任した。北朝鮮との接触をめぐり中国を訪問中に、トランプ大統領から突然ツイッターで解任を告げられた。「諸君は人に対してはいつも誠実で親切にしてほしい。この街は意地悪な考えでいっぱいだ」が最後の言葉だった。この挨拶に国務省職員から皮肉などよめきがもれた。

   今度は誰が首を切られるかがワシントンの話題で、ケリー首席補佐官ではないかと専らささやかれている。やれやれ......。

   トランプ大統領就任一年、高官の離職率は34%という報告がある。「前代未聞だ。一貫性のない政策、何を言い出すかわからない性格が周囲の仕事を難しくしている」(シンクタンク、ブルッキングス研究所のエレイン・カマーク上級研究員)ということだろう。

   過去27年間5人の大統領にアジアや中国について助言してきたデビッド・ランク氏は「トランプ政権の決定はいつも練られないまま実行されてしまう」と話す。トランプ大統領は側近に幅広い人材をそろえることよりも、自分の望むことを言う人物を好むため「違う意見を言えば辞めるしかない」そうだ。

   政権の顔である広報責任者だけでもすでに4人が変わり、中には在任10日間の人もいたというのだからあきれる。

   気をつけなければならないのは、その側近交代劇の中身だ。

   ティラーソン国務長官の退任は、イランとの合意破棄をめぐってトランプ大統領と意見が合わなかったことが引き金といわれる。後任のポンペオCIA長官は対外強硬派だ。

   経済の司令塔だったコーン国家経済会議委員長は保護主義に反対だったが、トランプ大統領の長年の友人で対外強硬派のクドロー氏にすげかえられた。

   安全保障担当のマクマスター補佐官も、イスラエルの首都としてエルサレムを容認するトランプ大統領の意向に慎重だったために嫌われたといわれ、後任のボルトン氏はもう極めきの対外強硬派だ。

   小谷哲夫・明海大学准教授は「トランプ大統領は前からボルトン氏を国務長官に選びたがっていたが、口ひげが嫌いでためらっていたそうだ」という話を披露し、武田真一キャスターが思わず「え?」と聞き返す場面があった。今回はあまりの人材不足に口ひげぐらい我慢したのだろうか。

   以上の新任3人は米国第一主義の信奉者ぞろい。国際協調を重視するのはもうマティス国防長官ぐらいではないかといわれる。対北朝鮮外交では、ポンペオ氏は「妥協は一切しない」と主張してきた。ボルトン氏にいたっては「南北統一して、北朝鮮の政権を消滅させるべきだ」と述べたこともある。

こわもて2人の起用で北朝鮮武力攻撃が現実味に

   NHKの田中正義ワシントン支局長は「こわもての2人を起用することで金正恩委員長に約束を反故にするのは許さないと示した。北朝鮮の非核化を少しでも疑えば、米国は交渉をスパッと打ち切り、より強い圧力に戻るということだろう」と見る。

   北朝鮮に対する限り、こうした交渉方法が悪いとは言い切れない。むしろ、甘い期待はこれまでことごとくひっくり返され、核武装の時間稼ぎをされてきたことは事実だ。北朝鮮の独裁政権はないほうが世界のためだという考えも、もちろんあり得る。

   ただ「トランプ大統領が先のことをどこまで深く考えているかはわからない。複雑な動きを調整できる人材、主導権を握れる専門家がいない」(ライス国務長官の顧問だったフィリップ・ゼリコー氏)から危ういのだ。「私ならまず韓国と話し合うチームを派遣して意見を聞く。こうした動きがない」(ヒル元国務長官)といった不安が消えない。そういえば、駐韓大使も北朝鮮問題担当特別代表も空席だ。

   小谷准教授は「米朝会談が失敗したら戦争になる懸念が高まっている。できれば会談が行われない方がいいという声もある」とさえ指摘する。

   貿易問題でも、トランプ大統領は強硬だ。中国に対して関税を引き上げ、日本にも「米国を利用する時代は終わった」と言い出した。世界貿易戦争の危機を漂わせながら、強硬発言が続く。

   田中支局長は「貿易赤字を減らすためになりふりかまわない。秋の中間選挙、2年後の大統領選を強く意識してアピールし、支持をつなぎとめたい。その交渉は最初に強く出てから落としどころを探る『ディール』の手法だ。野球でいえば、内角高めの球でまず打者をのけぞらせる」という。

   同盟国の日本に対しても貿易圧力は強まるだろう。気まぐれで狭隘な自己中心の米国第一主義が、トランプ大統領の性格と政策だ。「その裏にはトランプ氏を支持する米国民の声がある。米国の社会が変わりつつあります」と小谷准教授は語る。

   これでは、安倍首相のお友達路線が通じなくなると思わないといけない。安易なご機嫌取りだけでは譲る一方に追い込まれる。そうでなくても米国追従のNDAは根強いのだ。内角高めを投げられて腰を引いてはヒットなど打てない。

   ※NHKクローズアップ現代+(2018年4月2日放送「異常事態トランプ政権 相次ぐ辞任劇の内幕は」)