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<半世界>
「稲垣吾郎」妙に似合ってる炭焼き中年オヤジ!旧友と酒酌み交わしながらのほろ苦い人生折り返し点

©2018「半世界」FILM PARTNERS
©2018「半世界」FILM PARTNERS

   元SMAP稲垣吾郎が田舎でひっそりと暮らす頑固者という、アイドル時代のイメージとはまったく違う役を好演している。

   高村鉱(稲垣吾郎)は生まれ育った地方都市から、さらに人里離れた山中に炭焼き小屋を構え、父親から受け継いだ備長炭を作り続ける。そこへ中学時代の旧友で、自衛隊員として海外派遣されていた沖山瑛介(長谷川博己)が突然帰ってくる。聞けば、自衛隊をやめ、妻子とも別れたらしい。

   さらに、もう一人の旧友で、地元で中古車販売業を営む岩井光彦(渋川清彦)もやってきて、3人は久々に酒を酌み交わす。田舎町で家業を継いだ者と世界の実情を知り心折れて帰ってきた者との溝は、簡単に埋まるものではない。

   鉱は反抗期の息子との距離は開くばかりで、それが原因で妻との関係にも亀裂が入り始めていた。39歳。人生の折り返し点を迎えた悩める男たちのひと冬の物語である。

ニット帽と口ひげ・・・SMAPとまったく違ったイメージの魅力

   黙々と炭を焼く鉱の姿をとても丁寧に見せる。澄んだ空気の中で焼けていく炭の「バチバチ」という乾いた音で、匂いも漂ってくるようだ。稲垣吾郎はニット帽に口ヒゲをたくわえ、真剣な目つきと慣れた手つきで炭を扱う。炭と共に生きるということが何たるかを、芝居と画と音で説得力を持って見せられ、映画の世界観にどっぷりと浸かることができた。

   そこに「異物」として帰って来る瑛介も、鉱の仕事を手伝うことで徐々にこの世界に溶け込んでいく。光彦と3人で冬の海辺で毛布にくるまり酒を飲む場面は、酔った中年オヤジのつまらない会話が絶妙に生きて幸福感に満ち満ちた素晴らしいシーンである。

   中年オヤジの友情、鉱の息子のいじめ問題、そして人の死などをカットを積み重ねて描いていくのだ、扱っているテーマが多岐にわたるため、全体として何を描きたかったのか消化不良になっている印象は否めない。しかし、終始、独特のユーモアが流れ、死という暗いテーマもどこか清々しく見せる。

   たとえば、遺体を棺に入れる場面を、残された者たちのぎこちない所作を描くことで、死は普通のことで、限りなく身近なものとして見えてくる。人は死んでも、世界は動き続けるという一種の諦めを通して、それでも生き続けるというリアルな希望が胸を打つ。(全国公開中)

シャーク野崎

おススメ度☆☆☆